2018年8月5日日曜日

山田耕司「蚊柱に会釈してけり千代田城」(『不純』)・・・



 山田耕司句集『不純』(左右社)、シンプルといえば、近頃の句集にしてはシンプルな造本である。帯もなければ「あとがき」もない。さっと見には「不純」を詠み込んだ句も見当たらない。ようするに句を読む際の情報はほぼ遮断されているので、本句集、本句自体を勝手に楽しむしかない、という伝でいけば、愚生は第五章の「山田耕司VS山田耕司」に指を屈したい。各章の句のまとめ方といい、章題といい、いわゆる普通というわにはいかない。それでも表紙装画が山口晃「二引両子の字真形柱」なのには、意表を突かれた。山田耕司が地元・桐生でいろいろな活動をしているようだから、その縁での装画かもしれないと想像した。一通り目を通して奥付に目をやると四角に囲まれた印状の枠のなかに「構成+企画/佐藤文香」とあるではないか。さもありなん。先だって山田耕司編集人「円錐」の第一回円錐新鋭作品賞白桃賞を佐藤文香は受賞している。不純?だなあ・・・(冗談です)。不があるとはいえ、純は純である。音符の屯を純粋の意味に用いているのは、白川静をまつまでもなく当然のことなのである。
 そして、その「山田耕司VS山田耕司」の章は、句合わせに「白」と「赤」として題詠で独吟ながら句を競わさせている。さらに最後のページに赤□点、白□点と合計点の判をしるすように仕掛けしてあったので、あらためて判じてみたら、愚生の判定は赤勝ちが5句、白勝ちが3点だった。しかし句の内容からすれば、白に配された、

   青春の飲む白魚のやうなもの    題「白魚」
   さびしさの末黒野を出てなほ道たる 題「末黒野」
   黄落にすべなき笊となりにけり   題「黄落」

の以上の三点で、他の赤の五句・五点を凌駕していると、愚生は思った。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておきたい。

  石の頭に石を乗せたり三鬼の忌
  青嵐ふせぐに舌のうすきこと
  人形に歯もやや見えて赤まんま
  啓蟄の声が来てゐる勝手口
  絵日傘の遺品となるは今日ならず
  削らせておく貫録を春牛蒡
  淡雪のただそれとなくすべて山
  本物は匣に入れられ麦の秋
  ふるさとや玉にラムネの底とほく
  啓蟄を立つに脚なくミサイルは

山田耕司(やまだ・こうじ)1967年群馬県生まれ。



          撮影・葛城綾呂 アブラゼミの羽化↑

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