2020年5月12日火曜日
柴田南海子「淋しいぞわが塚に掘れ蟻地獄」(『朝ざくら夕ざくら』)・・
柴田南海子第5句集『朝ざくら夕ざくら』(東京四季出版)、平成24年から令和元年まで8年間の句をまとめたもの。序文は坂口昌弘「目を凝らすことが祈り」、その中に、
湖心まで詩心飛ばせと青嵐
おほぞらを詩の一塊鳥渡る
作者はいつも「詩」「ポエジー」を意識している。基本は客観写生であるが、単純な写生だけでは俳句を詠む心が満足しないようだ。湖と青嵐だけの風景には満足できない心がポエジーのようだ。詩心が青嵐にまきこまれる。心という主観が客観的風景と合体する主客一致の句風である。
と述べている。句集名については、
詩乞ひの目を朝ざくら夕ざくら 南海子
の句から採ったと「あとがき」にある。また、
「太陽」創刊以来十八年間、輝く嶺を目指しながら遠い道のりを「太陽」の仲間と旗を振りひたすら歩いて来ました。クリエーターとしてみずみずしい感性が湧き出る詩の泉を胸中にと願いながら。太陽創刊二十周年への魁の一つとしてこの一集を眺めて頂ければ幸いです。
とあった。ともあれ、愚生好みになるが、本集よりいくつかの句を以下に挙げておきたい。
神すさび異臭の霧を火口より
悼津田清子先生
津田清子師立夏の宙へ還らるる
隠し井は逃散の口笹子鳴く
青き踏む龍湖の照りを爪先に
終命を水鏡して枯蓮
右取れば詩魔の径なり青葉騒
大瑠璃や杉の乳房が張る不思議
遺跡への出入り自在や行々子
千手より無尽の爽気観世音
白萩のそより亡き人来る夕べ
桜紅葉散るありなしの風にさへ
柴田南海子(しばた・なみこ) 昭和15年、兵庫県明石市生まれ。
撮影・中西ひろ美「ここだけはいつもどおりの行々子」↑
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