井上弘美『読む力』(角川書店)、「あとがき」にあたる「おわりに」に、
本書は『俳句』に連載した内容に、新たに書き下ろした四編、一二句を加えて再構成した。
連載時は毎月男女二人の近刊句集を取り上げ、季節に合わせて、冒頭にそれぞれ一句を立てた。そのため、取り上げる句集や作品に制約があった。
と記されている。ブログタイトルに挙げた「母よ貴女の喪中の晦日蕎麦ですよ」澄子の句には、
掲出句は、「母よ」という呼びかけで始まっているが、これは、日本の詩歌の伝統的な手法である。命の根源へ向かって発する、いわば究極の呼びかけであって、後に続くどんな言葉をも呑み込んでしまう。そんな呼びかけに、「貴女の喪中の晦日蕎麦」と続けられるのは作者だけだろう。大方の予想を裏切る仕掛けを、作者ならではの手法と文体で作るのが氏の魅力だが、母の死をこのように描いてみせた手腕には圧倒される。
とあった。最終章「Ⅳ 構成力の可能性ー友岡子郷『貝風鈴』三三句を読む試み」は巻末に句の分析表まで作成している。もうずいぶんお会いしていない。友岡子郷も八十歳代半ばだろう。元気にお過ごしだろうか。「初蝶やそのあとは風そのあとも」子郷の句が記憶に残っている。ともあれ、本書中より、子郷の句をいくつか挙げておこう。
皿に盛りたる枇杷程ほどの歳の差か 子郷
明易や鳥食みのもの庭に撒き
よろこびはかなしみ誘ひ滝白し
十一面観音穭田となりぬ
精霊蜻蛉龍太碑に龍太居ず
井上弘美(いのうえ・ひろみ) 1953年、京都市生まれ。
★閑話休題・・・羽村美和子「バッグから尻尾出ている暖房車」(「ペガサス」7号より)、森須蘭「脊柱麻酔ずっと覚めないチューリップ」(「祭演」59号より)・・・
前掲の池田澄子が「豈」同人、その同人つながりで、「ペガサス」「祭演」の「豈同人」の一人一句を以下に挙げておきたい。
点描の最後の一点鳥雲に 中村冬美
絶望するにはちょうどいいマスクだ 羽村美和子
ふきのとう母の心音かとおもう 坂間恒子
うっかりで家族になって花筏 森須 蘭
卒業の「以下同文」の子の笑顔 川崎果連
葉牡丹が空を回してくる朝 杉本青三郎
撮影・芽夢野うのき「五月闇綿棒に似て家無し子」↑
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