「shinado」28号(編集・表紙絵 榎並潤子)、「編集後記」によると、昨年4月に本誌を発行し、5月に合評会を開き、全員が顔を合わせた直後に同人・林信弘が体調を崩したとあった。残った4名で、とにかく本号を林信弘追悼号として発刊したという。
中村明美「たんじょうび」には、
(前略)白梅の香りの中を歩いて
死んだひとのたんじょうびを
祝いに行く
死ななければ
生きられない (後略)
小松あや子「眠りのなかへ」には、
(前略)その光も消え
いよいよ
脳の森へ
迷い込む
やみは
脳の統率をはずし
自我を捨てる
眠りにゆきつくのはどのあたりか (後略)
森泉エリカ「川面」には、
流してしまいたい
ものが
ある
流すことは
できない
ものもある (後略)
榎並潤子「十一月の銀河」には、散文と句がほどこされている。
万緑や跨るもの影の中
暗い雨列をなしたる潦(にわたずみ)
娘が立つ台所
冬瓜や君の涙の味がする
(前略)今私は自分の唯一の相棒を失った。昔二人で話したものだ。どちらか先に行かなければならないのなら、私が残った方が良いと。あなたの骨はコロナウイルスの騒ぎでで、なかなかお墓に埋葬することができない。でもそれは私にとって慰めでもある。あなたはまだ私の傍にいて、語りかけてくれる。「君は分ってくれるだろう オレはいま真っ暗な草原の道をあてもなく歩いている でももうすぐ生まれる前のまばゆい広い世界に着くだろう それではみなさん、さようなら・・・・・・」
巻末の「林信弘の詩(二つの詩集より)」のなかに「希望—長谷川利行に」があった。思えば、生前の首くくり𣑥象(たくぞう)こと古澤𣑥(たく)も、長谷川利行のことを「リコー・リコー」と言って、好きな画家だと言っていた。林信弘「希望」を、以下に抄出抜粋しておこう。
希望
――長谷川利行に
(前略)何か信じていたのですか
なんにも知らなかっただけだよ
世界は崩壊することも
あるんだってことを
何も為し得ないことを
透徹した目で見ている人がいるとしたら
もう その人の前に
崩おれているのに (中略)
街々は暮れていくだろう
色彩は空に流れ
街並みも一緒に流れていく
おれはおまえと一緒にいくよ
赤と緑と白と
点々と色にあふれて
流れていくのだ (2003年)
「shinado」・・科戸(しなと・しなど)は風の異称、風の生まれるところ。林信弘の享年は73。
撮影・中西ひろ美「影ひなた影から次のひなたまで」↑
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