2020年5月29日金曜日

広瀬ちえみ「あの鳥がほしいと言えば撃つかしら」(『雨曜日』)・・

 


 広瀬ちえみ第3句集『雨曜日』(文學の森)、集名に因む句は、

  うっかりと生まれてしまう雨曜日   ちえみ
  雨曜日だったね全部おぼえている

  である。帯の惹句と表4帯の15句の抄出は中西ひろ美。それには、

  かつて誰もが覗かずにいられない広瀬ちえみの沼があった。
  長い時をかけて木立が繁り、今は沼は見えない。
  ちえみを探したければ、旅をしてそこに行けばいい。

 とある。著者「あとがき」には、

 『セレクシション柳人 広瀬ちえみ集』(二〇〇五年/邑書林』)を出してからもう十五年も経ちました。相も変わらずいい年をして、夢を見ながらふわふわと生きてきたように思います。
 かつて「広瀬ひえみ」を評することばをたくさんいただきました。「ニヒリスト」「ナルシスト」「迷路の少女」「沼のちえみ」「穴のちえみ」等々。自分でもわからない「私」を、さまざまな方向から照らししてくださったことばを思い返しながら、句を書いてきました。(中略)
 さて、今でも沼はあるだろうか、穴、ニヒリスト、ナルシスト、少女は?どこにも行かずにいてくれたでしょうか。それとも・・・・。
 この句集を読んで下さる方々のことばを、楽しみに待ちたいと思っています。

 としるされている。ともあれ、愚生好みになるが、いくつかの句を以下に挙げておきたい。

  長老が「春!」というのを待っている
  そのみちもどのみちも雪になりますの
  かき混ぜるだけで戦争できあがる
  死んでからゆっくりやろうと思うこと
  地図ひろげたましいはこのあたり
  咲くときはすこしチクッとしますから
  墜曜日だからお外に出たらだめ
  うつつとはいきなりけがをするところ
  六人の三人転ぶ今日の予報
  とりあえず輪ゴムでおとなしくさせる
    三月のだった 二句
  窓だった玄関だったという瓦礫
  春眠をむさぼるはずのカバだった
  口裏の裏の寸法まちがえる
  正装の下に包帯巻いている
  春の野の自分はお持ち帰りください
  午後からは豹が降るかもしれません
  もっと深い藍になるまで雨を聴け
  情けない顔にみがきがかかる犬
  蝶殺め詩人は蝶の詩を書いた  
 
 広瀬ちえみ(ひろせ・ちえみ) 1950年生まれ。



       撮影・鈴木純一「アジサイの間違い探しあと二つ」↑

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