2021年2月13日土曜日

武貞啓子「『未来図』の表紙黒白天牛(かみきり)も」(『若楓』)・・・


  武貞啓子第一句集『若楓』(角川書店)、帯文は守屋明俊、それには、

 

   若楓父母に学びし「真」と「美」と

 慈しみ深くお育ちになったせいか、武貞さんの句には大らかさがある。

 詩情豊かで、上質のユーモアも感じられる。「未来図」鍵和田秞子主宰に永く薫陶を受け、身辺句にも大きな景の句にも作者の情(こころ)が通う。

 ゆったりと時の流れを愉しみ、これから作者はさらに豊饒な世界へ進むであろうと期待している。


 とある。また、著者「あとがき」の中に、


 (前略)その日、睡りから覚めてぼんやりしていらした先生は、お声掛けする中で、しばらくすると、にこっと微笑んで下さいました。頬に赤みがさして来てお顔がぱっと輝いて見えました。その後、色々なことをお話しすることが出来たのです。「今となっては何もして上げられないけれど、思い出す私の評があったらどんどんお書きなさい。後は編集長の守屋明俊さんに色々教えて貰って・・・」と。お別れに際して握手させていただいた掌のほっそりとして柔らかかった感触は今も私の掌に残っております。

 秞子先生から直接の選句は叶いませんでしたが、句は二十年の間に先生に目を通していただいたものばかりです。


 とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておきたい。


   初蝶のさらりと躱し黄を残す        啓子

   伊豆沼の闇よ万羽の浮寝鳥

   青虫の消えてみどりの残りけり

   桜落葉身になとひたき色拾ふ

   地震後もみ空万羽の雁渡る

   口笛や瓢の笛より吹き易く

   麗らかや象を操る竹箒

    鍵和田秞子主宰「毎日芸術賞受賞祝賀会」

   賜りし真竹の扇愛無限

   師のおこゑ聴かれぬ日日の虫の声

   傘寿いま山頂に立つ桜どき

   新緑や令和天皇声若き

   身に入むやこころを正す天災よ

   

 武貞啓子(たけさだ・ひろこ) 昭和13(1938)年、東京生まれ。


          芽夢野うのき「誰を待つ春をうつむく白い花」↑ 

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