杉原青二第一句集『ヒヤシンス』(俳句アトラス)、序は中村猛虎「杉原青二よ、お主も悪よのう」。跋は林誠司「彼の挑戦」。まず、中村猛虎の序に、
(前略)常在戦場、新人であろうなかろうが「亜流里」では、常に同志であり、またライバルでもある。出る杭は叩きつぶすの掟通り、句会後の反省会と称する飲み会では、私を含め、自分の立場に危機感を覚えた面々が、刺客となり、氏に突撃するのだが、そこは県の重職に就く氏、物腰柔らかく、意見は適確、話は面白い、しかも酒が強い、ときては歯が立たない。刺客はことごとく籠絡されていくのだった。まさに人たらしである。
さて、悔しいかな、順調に俳句のコツを修得し、上手くなっていく氏、三度目の句会で出した、
理科室の光歪めるヒヤシンス
は、圧倒的支持を集め、本書のタイトルにもなっている。(中略)
その後、数々の秀句を生み出していく氏、今、振り返れば、最初から映像を切り取り、焦点をクローズアップし、また、捨て去り、的確な季語とともに、十七文字に組み立てていく才能をお持ちであったのだろう。
と記されている。また、跋の林誠司は、
青二さんの句集『ヒヤシンス』は秀句揃いの句集である。読者はきっと氏の豊かな才能や多彩な表現力に驚くことだろう。好きな句を挙げてみる。
底紅やマダムは今も韓の籍
遠火事や波打ち返す水枕
少年のレタスの胸に聴診器
卒業式沖に出てゐる兄の舟
白馬が引つ張つていく子の視線
「底紅や」は句集の巻頭句。在日韓国人の方だろう。異国である日本に暮らす一人の女性の生活哀感、故郷喪失の悲しみが「いまも韓の籍」で描かれている。「韓の籍」はマダムの矜持。この句は青二さんの指向がよく表れている。人間の心、生き様を見つめている。写生俳句にはあまり興味が無い。敢えて言うなら、表には出て来ない世界を写生しようとしている。(以下略)
と述べている。ともあれ、集中より、いつくかの句を挙げておきたい。
春の暮帰つてくれぬこつくりさん 青二
立飲屋いつも木枯入れてをり
春陰やかさと崩れる母の骨
阪神忌花屋に水のこぼれをり
リンカーンコンチネンタル最後に降りる夏帽子
どぶろくに手も足もなき神になる
ハンカチをそろそろ顔にかけてくれ
煮凝の中もさびしき宇宙かな
神風の一機が戻る大夏野
爽やかや大仏の掌の無一物
人骨でつくりし阿弥陀花の冷
霊柩車行きて日傘を開く音
☆「句会亜流里(あるさと)」創刊号(7月)↑
夏シャツで来て下さいと一周忌 青二(「亜流里」創刊号より)
下りゆく登山電車のみな無口
はんざきの還俗したる面構へ
杉原青二(すぎはら・せいじ) 昭和31年生まれ。
芽夢野うのき「墓石の熱くてならぬ昼のみそはぎ」↑
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