2021年9月15日水曜日

茅根知子「ここからは管理区域となる茸」(『赤い金魚』)・・・


  茅根知子第二句集『赤い金魚』(本阿弥書店)、解説は仁平勝「ときには少女のように」、それには、


 茅根知子の俳句は、しばしば時間が止まっている。というより、彼女の創り出す俳句の場面には、時間を止めたいという願望があるように思う。(中略)

   少年のひとりがやがて虫売に

 こんな風景も懐かしい。虫売りのオジサンを囲んで、少年たちの輪ができている。それを作者は(いかにも少女らしい想像力で!)その一人が虫売りになると勝手に決めている。映画なら、アップで映る少年の顔がそのまま大人の顔に変わり、カメラが引くとそれが虫売りだというショットになる。時間は止まるどころか、タイムスリップしてしまう。私のもっとも好きな句だ。

 もしかして私は、茅根知子の「少女」性にこだわり過ぎるだろうか。けれども、子供の心を持たない詩人(俳人)とは形容矛盾でしかない。読者は『赤い金魚』のなかで、たぶん何度となく自身の遠い記憶に遭遇すると思う。


 とある。また、著者「あとがき」には、


 本当に長い時間が経ってしまった。『赤い金魚』は私の第二句集である。第一句集から、気がつけば十七年が経っていた。この間、まわりの状況は大きく変わった。俳句を教えて下さった今井杏太郎はもういない。ひとりで選をしているとき、いない人のことを強く意識した。句集のタイトルは、下町を吟行しているときに詠んだ〈永遠に泳いで赤き金魚かな〉から取った。先生が「知子さんらしいですね」と言ってくださる気がして、決めた。


 と記されている。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  朧夜の部屋いつぱいに鳥の羽根       知子

  東京はあをぞら紙の鯉のぼり

  先生と遊んで春の野にをりぬ

  ひとりづつ帰るところが春の暮

  麦笛を乾ききつたる空へ吹く

  地下道にゐる人間ときりぎりす

  孑孑の許可なくつぎつぎに増ゆる

  天高し真ん丸の目の鬼瓦

  画用紙の絵が貼りつけてある襖

  明るさを間違へてゐる海鼠かな

  青い絵を行列のゆく寒さかな


 茅根知子(ちね・ともこ) 1957年、東京生まれ。




★閑話休題・・アンサンブル・イマージネ2021コンサート「音楽と映像のコンサート」(10月2日〈土〉14時開演 於:新宿角筈区民ホール)・・・


 ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ+電子楽器からなるアンサンブルユニットENSEMBLE IMMAGINEによる映像と音楽のコラボレーションコンサートです。オリジナル曲やクラシックのアレンジ曲などをスクリーンでオリジナルショートムービー、絵本作家カワチ・レン氏のイラスト世界と共にお楽しみ下さい。(映像協力・夜窓社)

・チケット 一般 3000円(税込)/学生1500円

     親子券 3500円(大人1名/子供2名まで)

     ペア券 5000円

・予約問い合わせ Keim@Keimmusic.com 



      撮影・鈴木純一「縷紅草生まれかわりがあるという」↑

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