茅根知子第二句集『赤い金魚』(本阿弥書店)、解説は仁平勝「ときには少女のように」、それには、
茅根知子の俳句は、しばしば時間が止まっている。というより、彼女の創り出す俳句の場面には、時間を止めたいという願望があるように思う。(中略)
少年のひとりがやがて虫売に
こんな風景も懐かしい。虫売りのオジサンを囲んで、少年たちの輪ができている。それを作者は(いかにも少女らしい想像力で!)その一人が虫売りになると勝手に決めている。映画なら、アップで映る少年の顔がそのまま大人の顔に変わり、カメラが引くとそれが虫売りだというショットになる。時間は止まるどころか、タイムスリップしてしまう。私のもっとも好きな句だ。
もしかして私は、茅根知子の「少女」性にこだわり過ぎるだろうか。けれども、子供の心を持たない詩人(俳人)とは形容矛盾でしかない。読者は『赤い金魚』のなかで、たぶん何度となく自身の遠い記憶に遭遇すると思う。
とある。また、著者「あとがき」には、
本当に長い時間が経ってしまった。『赤い金魚』は私の第二句集である。第一句集から、気がつけば十七年が経っていた。この間、まわりの状況は大きく変わった。俳句を教えて下さった今井杏太郎はもういない。ひとりで選をしているとき、いない人のことを強く意識した。句集のタイトルは、下町を吟行しているときに詠んだ〈永遠に泳いで赤き金魚かな〉から取った。先生が「知子さんらしいですね」と言ってくださる気がして、決めた。
と記されている。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
朧夜の部屋いつぱいに鳥の羽根 知子
東京はあをぞら紙の鯉のぼり
先生と遊んで春の野にをりぬ
ひとりづつ帰るところが春の暮
麦笛を乾ききつたる空へ吹く
地下道にゐる人間ときりぎりす
孑孑の許可なくつぎつぎに増ゆる
天高し真ん丸の目の鬼瓦
画用紙の絵が貼りつけてある襖
明るさを間違へてゐる海鼠かな
青い絵を行列のゆく寒さかな
茅根知子(ちね・ともこ) 1957年、東京生まれ。
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撮影・鈴木純一「縷紅草生まれかわりがあるという」↑
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