抜井諒一第二句集『金色』(角川書店)、帯の惹句に、「第65回角川俳句賞受賞/待望の受賞第一句集」とある。平成28年から令和2年までの334句を収める『真青』(文學の森)に続く第2句集。最近では珍しく短い(それでも、龍太あたりと比べると長いが‥)著者「あとがき」には、
例えば、いま目の前を飛んでいる一匹の蠅が、自分の人生を変える存在になるかもしれない。
俳句を作っていると、つくづくそんなことを思う。
とある。因みに集名に因む句は、
日当たりて金色となる冬の蠅 諒一
である。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
秋の雲あとかたもなき青さかな
対岸や壁の如くに虫の闇
一斉に猫の振り向く月の路地
鯉の背に止まるつもりの蜻蛉かな
向いてゐる方へは飛べぬばつたかな
水明かり落葉明かりと流れけり
保育器の中でくさめをしてをりぬ
子は眠り風船眠つてはをらず
木洩れ日の中の人影花の影
吹ききれぬ蒲公英の絮渡されし
遠蛙ときをりすぐそこの蛙
日輪と海一色の大夕焼
すれ違ふ会釈も熊鈴も涼し
抜井諒一(ぬくい・りょういち) 1982年、高崎市生まれ。
撮影・中西ひろ美「秋一日草色の向かうへ行かむ」↑
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