井上弘美の序文によると、「
恭子さんの作品には多くの植物が登場するが、それは恭子さんが絵心をもった人だからでもある」という。巻末ページに添えられたいちじく?の葉であろうか、モノクロの挿絵は著者のものである。清楚な感じだ。樹の花と言えば、次の句にあるような地味な樹の花は愚生の好むところだ。秋には必ず実を結ぶ。
波郷忌の楢も櫟も風のなか 恭子
この句にはまた波郷の
「吹きおこる秋風鶴を歩ましむ」を想起させる。波郷がいつ亡くなったか知らなかったが調べると11月21日とあるから、暦の上では立冬を過ぎて冬季の句に分類されるのだろう。が、実感としては晩秋の趣の方が深い。また。句の味わいもその方がいいと思われる。当然波郷の句、鶴を歩ましむに連想が及ぶのも冬風では具合が悪い。
ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。
秋蝶のまた低く飛ぶ白く飛ぶ
父の忌のあとの母の忌花擬宝珠
縄跳の手の昏れのこる一葉忌
数珠なりに昏れてゆくなり冬の鹿
手を打つて螢袋を起こしたく
根の国も雨つのるらむ川祓
合はす手の船形の火へ向き変へぬ
宇野恭子、1958年和歌山県生まれ。京都市在住。第一句集『樹の花』(ふらんす堂)。年譜によると石田郷子「椋」、綾部仁喜「泉」、井上弘美「汀」に師事とある。
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