大牧広第9句集『地平』(角川書店)。句集名は、
やがて雪されど俳句は地平持つ
の句による。地平とはいかなる地平か。不明なればこそのめざすべき地平があるのである。
着ぶくれて人も自分も許さざり
なのである。多くのものに、多くの人への挨拶に満ちている句ばかりだ。自在と言えば自在、世の中の動向に怒りをあらわにするのもその在り様の一面である。
にんげんのかくも傲りて吊鮟鱇
語り部のせめての紅や原爆忌
敗戦忌三橋敏雄詫びて逝く
平成の欠食児童日本の冬
これら、あれらを生み出すもとに
「八十五歳のとしよりのエネルギーの結果を読んで下されば、こんなにありがたいことはない」(あとがき)と言う。そしてまた、
極道と句道と似たるはるがすみ
金子兜太の後ろを歩いて、遜色ない大牧広の、ますますの健康と健吟を祈る。
泣かせる句も、
はこべらや厨は母の泣きし場所
死期近き姉の声なり麦の秋
新茶汲む妻との刻は現世のとき
花種を苛むごとく蒔かざりし
わが脳がこんなに疲れちんちろりん
糸ながながと蓑虫の敗北感
シモツケ↑
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