2016年8月29日月曜日

鎌倉佐弓「弓に矢をつがえよ永遠を射ぬかん」(『鎌倉佐弓全句集』)・・・



『鎌倉佐弓全句集』(沖積舎)には二冊の未刊句集が収められている。ひとつは、第一句集『潤』からもれた、いわばエチュードの時期の句を集めたものだ。高柳重信風にならえば「前略十年」の句50句、『夕日の輪』である。この初期句集には、当然ながら、現在に至る鎌倉佐弓の句のモチーフと良質な抒情が胚胎している。もうひとつは、文字通り最新句集として刊行されるはずの未完句集に相当する『雲の領分』である。全句集「あとがき」には以下のようにしたためてある。

 私の人生には、大きく分けて三つのできごとがあった。一つめは俳句との出会いと「沖」への入会である。「沖」で俳句を学んだ十数年間じは、楽しくかつ充実したものだった。二つめは夫である夏石番矢との出会いだろう。私が困った時、悩んでいる時、いつも的確なアドバイスをくれ、背中を押してくれた。三つめは俳句を英語に翻訳して出版したこと。どんなにわずかであっても、私の伝えたいことが伝われば。そう思って送り出した英訳句集だったが、私の俳句世界は格段に広がっていった。

ブログタイトルにあげた句「弓に矢をつがえよ永遠を射ぬかん」の「矢」は、夫・夏石番矢であり、「弓」はもちろん自身・鎌倉佐弓のことであろう。名を詠み込んでの意志表示である。
ともあれ、初期句集と最新句集からいくつかの句を挙げておこう。

   三月の空にあまりし枝を剪る     「夕日の輪」
   芽吹きゐて移り上手な渓こだま
   父が植ゑし柏枯れたいように枯れ
   くぼめるは何を忘れし冬帽子
   見えぬ風見えないままに断崖へ  「雲の領分」
   葦原のそこからは雲の領分    
   皿二まい先に割れたいのはどちら
   手の平のこの水が国壊すとは
   ゆれる梢まだ夏に触っていたい
   風もまだつぼみ大空にふるえる
 
因みに栞文は復本一郎と神山睦美。
鎌倉佐弓、1953年高知県生まれ。



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