2016年8月7日日曜日
山本敏倖「感情の留守のあたりへ蜥蜴出る」(『断片以前』)・・・
山本敏倖第三句集『断片以前』(山河俳句会)の句数は575句。句集名は以下の二句からの合成か?
断片は彼岸花的急降下 敏倖
海市から感覚以前のかんかく
ただ、彼の「あとがき」によるとこうだ。
題名の『断片以前』は、第二句集から続く音韻との関わり合いを鑑み、言葉以前、言葉が言葉として像や機能が確立するそれ以前、まだ断片にさえなっていない音韻のみで意志の伝達を図っていた頃の思考回路に立ち返り、その気分と感触で、現代の日常使用されている言葉を感覚のみで結合したらどうなるか。自身の来し方の感慨を含め、五七五という韻文で表白したらとの思いをテーマに生れた。
さらに、
あえて感覚優先の選句を行使し、結果は読者の感性に委ねることにした。
とそっけない。愚生のごとき年寄りの感性ではもはや句を読むに難解の淵に沈みこみそうである。
構成は阿部完市の薫陶を受けた時期と、その死去によって完市死後の作品を二部に分けて構成しているという。
感覚とはいいながら、それでも、ブログタイトルにした句「感情の留守のあたりへ蜥蜴出る」は、加藤郁乎「楡よ、お前は高い感情のうしろを見せる」を下敷きにしているのではなかろうか、と思ったりする。
ともあれ、感覚的にいくつかの句を拾い、紹介しておきたい。
東西南北うすくうすめてみずすまし
かたつむりのかたるしすはしかしかんたん
地上まで滝であること忘れけり
この期に及んで亀が鳴く石が鳴く
あじさいのあっけらかんをまいている
薬物のきつねは遠く灯りけり
滴りを追う滴りも追われけり
赤とんぼ文字の起源へのめり込む
おぶらーとする遠火事はみるくの匂い
枯蔦の紆余曲折が捨ててある
沸点ですかうかうかと芽吹いています
鳥居さんの磁気あらしかなきさらぎ
体内の水が鳴り出す十三夜
近松忌遠心力を私す
山本敏倖(やまもと・びんこう)、1946年東京生まれ。「豈」同人、「山河」代表。
フヨウ↑
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