2017年10月12日木曜日

友岡子郷「かなかなや同い年なる被爆の死」(『海の音』)・・



 友岡子郷第11句集『海の音』(朔出版)、句数232句、昨今の300句を越える、いや1000句以上の句集もある、全句集ならいざ知らず、最近流行の句数の多い句集には、少しうんざりさせられるところもあったのだが(年寄りには辛い、もっとも愚生のごとき老いぼれを相手にしていないのだろうけれど・・)、それから比べるとほどよい句数の句集である(愚生が若い頃は、ほとんどの俳人の句集は珠玉の作のみを収載した句数がさほど多くない、せいぜい200句程度だったように思うのだが・・・)。
 本句集名は巻尾の、

   冬麗の箪笥の中も海の音    子郷

からであろう。帯文は、かつての師・飯田龍太の言が再引用されて、飾られている。じつによく友岡子郷の作品の在り様を現わしている。

 子郷さんの作品には、木漏日のような繊(ほそ)さと勁(つよ)さと、そしてやさしさがある。人知れぬきびしい鍛錬を重ねながら、苦渋のあとを止めないためか、これでは俳句が、おのずから好意を示したくなるのも無理はない。
                      (句集『日の径』帯文より)

本集には、父母を詠んだ句にもしみじみしたものが多い。例えば、以下の句、

  父もまたひとりの離郷法師蟬
  父の軍歴山百合の数ほどか
  竹の物差に母の名夜の秋
    井原市
  悴みて父もくぐりし校門か

 飯田龍太の句集「あとがき」も短かったが、子郷も短い。それが沁みる。ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておきたい。

   勿忘草ひとむら馬の水場なる
   鈴虫を飼ひ晩節の一つとす
   梨青し早世強ひし世のありし
   青蝗(いなご)子らの日々吾にありし
   絶壁の落椿また落ちゆけり
   まだ残る瓦礫のうへを春の鶸
   余り苗なぞや亡きひと想はるる
   平櫛田中(ひらくしでんちゅう)小春の版木積みしまま

友岡子郷(ともおか・しきょう)1934年、神戸市生まれ。



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