2017年10月23日月曜日
林桂「泳ぐ船長/沖に/月影/陸(くが)を風」(『動詞』)・・
林桂第8句集『動詞』(現代俳句協会)、集名となったテーマについて「後記」で以下のように記している(ちなみにブログタイトルの句は総ルビ)。
動詞をテーマにしたのは、以前の名詞(体言)をテーマにした作品創作の転換を試みようとしたからであった。名詞をテーマに掲げることで、一つの方向性が見えてくるのであるが、それはまた世界を収斂させる力としても働く。それを解放して、様々な方向を獲得する可能性を求めて、動詞をテーマにした作品創作を行おうとしたのであった。
というように、その試みは目次にも現れている。例えば冒頭から、「笑ふ」「走る」「遊ぶ」・・・と続いて行く。句の二例をあげると、
星笑(ほしわら)ふ
秘蔵(ひざう)
茫々(ばうばう)
ササ菩薩(ぼさつ)
風走(かぜはし)る
百合(ゆり)の
彼方(かなた)の
瀧(たき)の前(まへ)
たしかに上句の出だしは動詞なのだが、結句は多く体言(名詞)で書き終えている句が多い。たぶんそれは俳句の句法が要請する、もっとも安定して読者に光景を見せることができるという表現上の宿命のようなものから来ているのではなかろうか。
それをあえて、さらに開き、解放するには、結句に動詞を配する冒険を試みなければならないのだが、実に難しい、と思われる。作者が動詞の試みと述べているからには、当然ながら結句が動詞の句もある。
雪匂(ゆきにほ)ふ
雪虫匂(ゆきむしにほ)ふ
風匂(かぜにほ)ふ
句の創り方といい、句集の作り方といい、林桂は、句作において極めて意識的な作家である。
ともあれ、愚生の好みの句をいくつか以下に挙げておきたい。
風遊(かぜあそ)ぶ
瑞穂(みずほ)の
水(みづ)を
窪(くぼ)ませて
踏(ふ)んでゐる
父母(ふぼ)の
恵(めぐ)みの
影法師(かげぼふし)
朋(とも)も眠(ねむ)れり
さればさ
眠(ねむ)れ
腕(うで)の鬼(おに)
漂(ただよ)ふと
決(き)めて
決(き)めかねてから
水母(くらげ)
終(を)はれ
終(を)はれ
東北冷(とうほくひ)えて
夜明(よあ)けかな
林桂(はやし・けい)1953年、群馬県みなかみ町(旧新治村)生まれ。
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