2017年10月3日火曜日

井上けい子「銀河へと行くかもしれぬ蓮見舟」(『森の在所』)・・



井上けい子『森の在所』(文學の森)、集名は以下の句に因む。

  秋蟬に森の在所を知らさるる         けい子

著者「あとがき」に、

 句集『森の在所』は、平成二十一年刊行の『雪ほたる』に続くもので、二十三年から二十九年四月までの三七一句を制作順に収めた、私の第二句集です。

とある。序文は塩野谷仁で、その結びに、

  老いてなお炎となれり冬紅葉

巻末に近い作品である。作者は昭和六年生まれ。されど、この句からは、今なお少女期から抱いてきた文学への熱い思いが見てとれる。「冬紅葉」が作者の思いを代弁していよう。俳句では八十代は熟成のとき。これからの健吟を願って止まない。

としたためられている。
 著者は退職後、星野沙一のカルチャー講座を受講し、「水明」の同人となり、沙一亡きのちは星野光二に師事、第一句集を編んだ後、塩野谷仁のカルチャー教室を受講、探求心、好奇心も旺盛な様子である。現在は「遊牧」同人で、句作りに、なお磨きがかかっているようだ。ともあれ、以下に、いくつかの句を挙げておこう。

  いもうとのさよならを告ぐ冬茜
  散骨の海果てしなく冬銀河
  品書に改訂のあと走り蕎麦
  蛍袋のなかに密かな隠し人
  留守電にのこる電話や花の闇
  洞窟にのこる声あり沖縄忌
  夜の卓に葡萄一房あり触れず

井上けい子(いのうえ・けいこ)、昭和6年、朝鮮京城府生まれ。



          ヒガンバナ 撮影・葛城綾呂↑

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