2019年2月5日火曜日

武藤幹「悴(かじか)みぬいつか無頼を遠くして」(第3回ひらく会)・・・

 


 昨日、2月4日、府中市市民活動センタープラッツ第4会議室で、第3回ひらく会が行われた。選句は一人5点の持ち点制、それぞれの句が拮抗していたせいか最高は2点で、多くは一句一点のいわゆる並選1点の5句選が多くを占めた。とはいえ、武藤句「悴みぬ・・・」に2点を投じた人は二人いた。その他、一句に2点を投じられた句は、

  ゆうづけて
  梅さすえりも
  ひたをもて               鈴木純一

  云ふなれば不思議な勝ちと寒の梅    中西ひろ美 
  人恋しまでは読めたが雪の句碑     中西ひろ美
  春うごく親指コインポケットに      鈴木純一
  (かじか)みぬいつか無頼を遠くして  武藤 幹
  透明な錆浅葱(さびあさぎ)かな水かまきり 大井恒行

 ともあれ、以下に他の一人一句を挙げておきたい。

  黒姫の色の底ひや雪の村        渡辺信明
  初音かな真昼の耳のピクとする     武藤 幹
  本読めば才色兼備暖房者         猫 翁
  梅小鉢そろそろ孫の産れたか      成沢洋子
  春や立つ硯床の墨揺蕩うて       大熊秀夫
  立春の我が家われらの猫がいる    中西ひろ美
  藪はらや借り暮らしの垣ピラカンサ 救仁郷由美子
  サザンカの白のうれしさ散りてこそ   鈴木純一
  龍天に青枯れの葉を玩味するか     大井恒行

★閑話休題・・じつは「ひらく会」の前回全句評を鈴木純一が自主的に行って、開催日に各自に配布してくれている。その一端を以下に抄出したい。長大なものもあるので、短いもの二編を以下に・・・。

                   鈴木純一 記す↓

 売り上げの上がらぬ(おとこ)崩れ梁    

「ノルマ」という言葉はもとはロシア語である
シベリアに抑留されていた人たちが戦後広めた
この言葉はよく使われ私もこの言葉に使われた
共産主義の言葉が資本主義の現場によく働いた
市場は自由という神の見えざる手に委ねられた
経営者にも読める唯一の文字は数字だったので
職場の壁に売り上げの太い数値が張り出された
数値に色が塗られ縁どられ影が付いて飛び出す
棒グラフは聳え立ち塗り潰されげ嵩上げされる
足を運べ靴を減らせ頭を下げろとにかく笑顔だ
「目標」「達成」「あと5日」「力を合わせよう」
数値応援団が「!」を引き連れて舞い踊り狂う
歌舞伎座の昼の部の天井桟敷でポケベルが鳴る
土手に座り焼きそばパンの断面の歯型を眺める
雪解け水が音を立てて簗の棒グラフに押し寄せ
は持直し踏ん張り齧りつき崩れやがて諦める

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 干し芋の一陽来復をいただく   ひろ美      

かんそいも―よく食べた。おやつの類だが、お菓子と言うほどのものではない。火でちょこっと炙ると、もっといい。懐かしい香ばしさ、なめらかな舌触り、深い甘みが、口の中、鼻の奥にひろがる。だがそれは、紅茶に浸したマドレーヌ、なんて背伸びしたものではない。お願いだから間違ってもスイーツなんて笑止な言葉を使わないでくれたまえ。見てくれが貧しいだけ、かえってその豊かさにはは秘密めかしたものが感じられる。懐かしさが蘇る。食べる前にちょこっと火で炙る―あれがいい。あれが『一陽来復』なんだね。陰から陽に変わる予感、その変わり目の手応えが、干し芋にはあった。


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