2019年2月16日土曜日

杉山隆「襲ひ来む未来とは何夜の庭の騒ぐ青葉にわが対ひをり」(「ジャム・セッション」終刊号より)・・



「ジャム・セッション」終刊号(編集・発行人、江里昭彦)。江里昭彦「終了宣言にして訣別宣言」は、同人誌の相棒であった中川智正の死刑執行により、すでに前号にても終刊が予告されていたので、別段驚くべきことでもないはずだったが、追悼をするに訣別宣言とは穏やかではない、とおもったのだ。その理由について、

 (前略)処刑後に判明した二、三の、不可解にして不愉快な事実について述べることで、あわせて訣別宣言の性格を持たせることとしたい。(中略)
  私のだした結論は、こうである。
「カエサルのものはカエサルへ返せ」のひそみに倣って、「オウムの人間はオウムへ返そう」。今後とも中川智正は、隠れキリシタンならぬ隠れオウム信者ともども、世人の非難と嫌悪という煉獄のなかに棲みつづければよい。
 私はというと、中川氏のことをきっぱり忘れて、別の方角へ、別の季節へ、歩みだそう。
 ではあるが、中川氏が残した俳句と文章は価値あるものなので、多くのひとの記憶にとどまってほしいと願う。テクストの価値と、そのテクストを生み出した人間の人格とを分けて扱うのが、文芸の世界の常識なのだから。

 と記されている。他には「中川智正と江里昭彦の往復書簡ー〈手記〉について」が掲載されいる。今号では、江里昭彦の俳句作品が読めなかったのは、残念だったが、代わりに、「紹介」で江里昭彦選の樋口由紀子『めるくまーる』30句の中から、いくつか以下に孫引きで挙げておこう。

   入道雲この高さならだいじょうぶ     由紀子
   厚化粧だったり薄化粧だったりする笑い
   自転車で轢くにはちょうどいい椿
   うしろから触れてはならぬ帰還兵
   練り菓子へ無政府主義者がなつかしい
   もういいわブルドーザーで決めるから
   空箱はすぐに燃えるしすぐに泣く





★閑話休題・・中村遥「木の花の白ばかりなる帰省かな」(第33回俳壇賞受賞作より)・・


 昨夕は、本阿弥書店「俳壇賞・歌壇賞の授賞式と懇親の集い」が、アルカディァ市ヶ谷で行われた。近年愚生は、あまり外に出ていないので、数年ぶりに坪内稔典、佐佐木幸綱とは抱き合って挨拶をした。八十を超えられたが、愚生などよりはるかに艶やかでお元気だった。その他にも久々湊盈子、田村雅之、池田澄子、大久保白村、菊田一平、酒井佐忠、松尾隆信、三宅やよい、鳥居真里子、内村恭子、広渡敬雄、鹿又英一、戸恒東人など、また、現代短歌社・田中惣一郎、ふらんす堂・山岡有以子、六花書林・宇田川寛之、昨日に続いて東京四季出版の西井洋子、上野佐緒など多くの方々と挨拶し、久しぶりに歓談した。
 ともあれ、もう一人の「歌壇賞」の一首を以下に挙げておこう。

 灯台にうまれた者のさびしさに夜どおし鍋を磨いてすごず   高山由樹子

     

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