2019年2月1日金曜日

伊丹三樹彦「励み鳰ほどにも 読むか 書くか 撮るか」(『身体髪膚』より)・・



 伊丹三樹彦句集『身体髪膚』(沖積舎)、「森洋彦の霊に捧げる」との献辞がある。巻末には解説として森洋彦「鑑賞『身体髪膚』『身体髪膚』-伊丹三樹彦の自詠像を求めてー」が掲載されている。その「1 回想」には、

    実母とは 臍の別れの はぐれ雁
 三樹彦の出生にふれての自詠句である。彼自身の手記によれば、実母しんとは、父母の離婚により、生まれるとすぐ別れ、父の三度目の妻つねの妹夫婦にあずけられている。いわば三樹彦には、生みの母、義理の母、育ての母と、三人の母がいたことになる。(中略)
 三樹彦は還暦を過ぎた年になって、はじめて〈実母とは〉と詠うことが出来たのである。六十数年を曳きずって来た負の意識は、この作品を生むことによって乗り越えることが出来たのではないか。父や三人の母への三様の愛情の過程をたどりつつ、今にして到達し得た心境であろう。〈はぐれ雁〉には、ここに到るまでの来し方への万感の思いがこめられているのである。

 とあり、また、

 三樹彦は青玄前記で〈作句対象は 身体髪膚からでも〉〈自詠像は俳人生涯の主題とも成り得る〉〈俳句は自伝詩でもある〉と言っている。この度の作品群は正に、これら作句理念の具体的な実証作品として、三樹彦作品中に特別な位置付けがなされよう。
 三樹彦はなお今後も、この詩型に過去を再生させ、未来を思い描きつつ、自詠の句を詠み続けるであろう。俳人の生涯の主題として。

 と、結ばれている。対して、三樹彦は「あとがき」に、

 この句集は,『伊丹三樹彦全句集』(一九九二年一一月刊)の後尾に「未刊句集Ⅱ」として掲載されたのを一本に改めたもの。私の百寿記念出版ともなろうか。加えて、解説の森洋彦、森早恵子夫妻の霊に捧げたくもなったのだ。

 と愛情豊かに記している。ともあれ、集中より、いくつかの句を以下に挙げておこう。

  杭打って存在の谺呼ぶ            三樹彦
  蛸突きて韓語とび出す秋日和
   (註・蛸とは地面を突き固めるときに用いる器具)
  その墓碑 その冠雪 なべて死は同形
  一つ星 死後も頂き 天道虫
  柚子湯の指 至る 兵時の火傷痕
  舟霊は沈みきらずに 波千鳥
  知らないが 羽根干す鳩を君は見たか
  一気には飛べぬ事情の 蒲の絮
  装うはこの世の樂事 蒲の絮



0 件のコメント:

コメントを投稿