2019年2月8日金曜日

宮﨑莉々香「おとなたちしたいをかこみおいてけぼり」(「円錐」第80号より)・・



 「円錐」第80号(円錐の会)の特集は、80号記念企画で「極私的『平成の名句』」。極私的だから、いわゆる俳壇的な、あるいは世相的なものに傾くよりも、ある時、ある一瞬にその句世界が個的に到来するという僥倖をえた句を挙げた方々が多いように思う。つまり、極私的に選ばれた句が、選んだ人の在り様を自ずと照射しているのである。句に添えられたエッセイによって、それらを窺い知ることが出来る。また、今泉康弘と山田耕司の往復書簡「『それでも』と彼は言ったー一九六七年生まれによる俳句思想史」も興味深い内容のあるものだ。次号以後も続くらしいので、愚生より、ほぼ20年若い彼らが、どのように現在、現状をとらえているのかも知りたいという気持ちもある。
 ここでは、極私的に選ばれた句をカッコ内に誰が選んでいるのかを以下に記しておきたい。

【極私的平成の名句】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  立春の連綿線の呼吸かな      川村貴子(田中位和子)
  中年や雪夜の酒をこぼしあふ    糸大 八(荒井みづえ)
  幾度も東風の燈明立ち直る     岡崎淳子(後藤秀治)
  はかりなき事もたらしぬ春の海  大峯あきら(栗林 浩)
  二の津波三の津波の夢はじめ   西大舛志暁(大和まな)
  うららかや崖をこぼるる崖自身   澤 好摩(江川一枝)
  日と月と蝶さへ沈み真葛原     澤 好摩(和久井幹雄)
  雁の空雁ヶ腹摺山の上       澤 好摩(横山康夫)
  かなしみの片手ひらいて渡り鳥  AI一茶くん(三輪たけし)
  髪も涙もしろがねの母大津波   磯貝碧蹄館(丸喜久枝)
  なあと云ひさしてたゆたふ櫻炭  恩田侑布子(澤 好摩)
  母てふ字永久に傾き秋の海    恩田侑布子(原田もと子)
  麦秋の男一人を消したるに     中山玲子(小倉 紫)
  青蜥蜴なぶるに幼児語をつかう  金原まさ子(山田耕司)
  息つぎにゆく産道も春の道     原田浩佑(山﨑浩一郎)
  泥かぶるたびに角組み光る蘆   高野ムツオ(橋本七尾子)
  君逝きし世界に五月来たりけり   池田瑠那(今泉康弘)
  囀りや大樹の昏きところより    桂 信子(矢上新八)
  さてと立ち上がり水母と別れたる たむらちせい(味元昭次)
  
 エッセイ・終りゆく平成へー「しつこく辺土より」で味元昭次は、次のように結んでいる。ヨシ!と思う。

 (前略)私の棲む土佐は辺土中の辺土で、恐ろしい程の老人県である。都市の視点からみれば、実に不便で貧しいのだが、便利も極まった平成の世が失ったものも無数にあり、失った良き物や事の片鱗があるのは辺土の強みでもある。都市より地方、勝者より敗者、利口より阿呆、先頭よりビリ、器用より不器用などを私は好む。そこにこそ人間や美があるというのが、辺土に生きる俳人の覚悟と信念だ。



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