2020年2月29日土曜日

仲寒蟬「始祖鳥の気概受けつぎつばくらめ」(「牧」春号〈創刊号〉より)・・・



 「牧」春号〈創刊号〉(牧の会)、櫂未知子「牧開ー創刊に寄せてー」のなかに、

 (前略)その寒蟬さんを中心として「牧」が創刊されるという。「ああ、大牧先生の、『牧』なのだな、いい名を選ばれたな」と思った。

 とある。また、創刊特別インタビュー「仲寒蟬が語る”俳句¨その魅惑の世界」のなかの後半に、以下のくだりがある。

 —「牧の会」での寒蟬さんの立ち位置は?
 仲 私は主宰ではないし、結社のようなヒエラルヒーのトップではありません。フラットな、先生とか師匠とか、上下関係のないのが「牧の会」の特徴です。先生と呼ばれるのは病院の中だけで充分です。私は代表という名の「牧の会」の窓口だと思っています。

 たぶん、このような体制と運営を実現するべく奥付には、仲寒蟬の名は無く、発行人・大部哲也、発行所・「牧の会」木村晋介、編集人・池田和人と、なってあるのだろう。その「牧の会」会長・木村晋介の「発刊の言葉」には、「」は、大牧広の「人と社会を透察した俳句心を大切にし」「ささやかでも俳句界に新しい息吹を送り込みたいという志から」、「牧」を発刊し、

 仲寒蟬氏を俳句の指導者として集まった仲間であり、「牧」の代表には同氏が、また副代表には小泉瀬衣子氏が就いています。

 とあった。小泉瀬衣子は大牧広の実娘である。ともあれ、創刊号より、以下に一人一句を挙げておきたい。

   人ころすものとは見えず冬の水      仲 寒蟬
   毛糸編む禁欲的な膝頭         小泉瀬衣子 
   何もせぬと言ひつつ婆は冬構       朝倉由美
   満ち潮に不意をつかれし春の海      阿部れい
   歓びは大地の讃歌牧開く         池田和人
   檗や海見ゆるまでまつすぐに       石井府子
   玉子かけ用玉子や寒明くる        猪子洋二
   福祉課の窓口に蝶きてをりし      大江まり江
   そのうちに飯でもといふ猫じやらし    大部哲也
   誇らしくもありし傘寿や梅二月      鎌田保子 
   冬暖か帆船は帆を干してゐる       菊池修市
   通勤快速すべり込むとき初燕       木村晋介 
   二人居の二個の貴さ蕗の薹        熊谷由江
   みちのくの哭きながら咲くさくらかな   玄葉志穂
   この冬木あばらの骨とたがはざり    髙坂小太郎
   宿坊の風呂吹き甘し善光寺       小林美恵子
   神童のやうな眼差し春の馬        庄司紅子
   行く年や積荷の重しまつりごと      鈴木靖彦
   避難所の大釜で炊く嫁菜飯        関根道豊
   月冴ゆる波の上に波光りたる       髙橋秋湖
   あたたかし温氏の握手忘れずや      對崎芙美
   マニキュア乾くいとまや春の虹      能城 檀
   量子コン発想変はる宝船        野舘真佐志 
   歳の差を考へてゐる春炬燵       長谷川洋児
   凧糸の風の重さを子にわたす       早川信之
   力みなき墨痕を背の年新た        日立 早
   しばらくはこの世にすまうなめこ汁   深江久美子
   フラワーショップに花は片仮名彼岸西風  福田洽子 
   星一つ二つ流れて師走かな        藤 房子
   囀は明日の空にとつておく        堀渕螢庵
   不意に来る平和にあらず桜どき      本田康子
   寒梅や耳鳴り耳で聴いてをり      前田千恵子
   焚火了へ己の闇に帰りゆく        溝川史朗
   葱買うてどう生かさうかバスの中     安田直子
   家系図に見知らぬ名前鳥交じる      山田まり
   学童の爪つやつやとセロリの香     若林ふさ子 
    
 

               撮影・鈴木純一「春の水低きへつかへつっかへて」↑

2 件のコメント:

  1. いつも「豈」を購読しております。このたびはブログでご紹介いただきありがとうございました。1人1人の句を丁寧に読んでくださり感激しています。これからもよろしくお願いします。

    返信削除
  2. お便り有難うございます。お身体大切にご健筆祈念いたします。

    返信削除