2021年9月10日金曜日

広渡敬雄「六甲全山縦走釣瓶落しかな」(『俳句で巡る日本の樹木50選』より)・・・

                             

  広渡敬雄『俳句で巡る日本の樹木50選』(本阿弥書店)、広渡敬雄は山歩きの、いや登山の猛者であることは、知っていたが、水を得た魚のように、まず「俳壇」(本阿弥書店)で「日本の樹木十二選」の連載を始めた。それが4年間継続して48回となり、「今回二つ追加して『俳句で巡る日本の樹木5選』として書籍化する」(「あとがき」)ことになったという。「あとがき」には、さらに、

 

(前略)本書に載せた樹木の最適地は、私なりの「樹木の俳枕」である。

 外来種を含めた単体の樹木だけでなく、その対象を魚付林、水道水源林、人工林、街路樹、街道樹(一里塚)、大学演習林、防風林(屋敷林)、樹海、公園林、森林浴のセラピー効果の森等々、人間との関わり深い森や林にも広げた。あまり一般の方が見られない山の樹木は避け、かつ花の代表である桜・梅は除いた。丈が僅か十センチの可憐な高山植物の「ちんぐるま」が、れっきとした木であることを認識していただければ有難い。(中略)

 写真は連載時は白黒であったが、本書ではフルカラーとしたので、視覚的にも美しい樹木を楽しんで頂けたら嬉しい。全体の樹形に加え、接写した花、葉、幹、実も入れた。


 とあった。どこを開いて読んでもいいのだが、ここでは季節的にも近く、愚生の句を採り上げていただいたので、その部分を紹介しておきたい。最後の「㊿石榴(神戸) 西南アジア原産の落葉樹」である。


(前略) 露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す   西東三鬼

     初がすみうしろは灘の縹色      赤尾兜子

     白梅や天没地没虚空没        永田耕衣

     妻来たる一泊二日石蕗の花      小川軽舟

     摩耶山の彩づきそむと障子貼る   小路智壽子

     「俳愚伝」紅葉の雨と神戸港     大井恒行

     滝の上にまづ水音の現れぬ      和田華凛

       (日本三大神滝・神戸布引の滝)

     鮊子の海に淡路の横たはる      三村純也

     六甲全山縦走釣瓶落しかな      広渡敬雄

 俳句弾圧事件後、東京より神戸に逃れ山本通の「三鬼館」で暮らすが、革命で国を失い当地の日本人妻も失った隣人、孤独な白系露人のワシコフの日々の一齣を切り取る(三鬼)、東西に長い神戸の初春の景(兜子)、阪神淡路大震災で辛くも九死に一生を得た感慨(耕衣)、神戸での十年近い単身生活の日々を描いた句集『朝晩』で俳人協会賞に輝いた。妻の来訪は嬉しい(軽舟)、摩耶山の麓に住み、その紅葉を目処に障子を張り替える(智壽子)、三鬼の神戸時代を含む自伝、神戸初日は初冬の港の見える宿だった(恒行)、「風詠」四代目主宰、曾祖父後藤夜半の滝の句を念頭に継承の覚悟を詠う(華凛)、神戸の春の風物詩「釘魚」の鮊子(いかなご)は、明石海峡周辺が好漁場(純也)、毎年十一月下旬、須磨から摩耶山、六甲山を経て宝塚に下る、関西のハイカー憧れの全長四十七キロの大会、終日大阪湾を望む(敬雄)。


 広渡敬雄(ひろわたり・たかお) 1951年、福岡県生まれ。



  撮影・鈴木純一「だらしねぇのすがしはさりぬたるみたれども」↑

1 件のコメント:

  1. 先日は私の拙句集「耳寄せて」を取り上げて頂き、選句まで有難うございました。躊躇いながらの上梓でしたので、とても嬉しかったですし、励まされました。感謝申しあげます。  半澤登喜惠

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