2021年9月25日土曜日

浦戸和こ「ははがりのはろかとなりしあきざくら」(『起き臥し』)・・


 浦戸和こ第1句集『起き臥し』(朔出版)、序は水内慶太、その中に、


    起き臥しは流れにもあり魂送り

 「あとがき」に「存分に仕事をやり終えてからの遅い入門でした」と述べているように、浦戸和こさんはメガバンクや芸能事務所で長年秘書として活躍していたようで、各界の多忙な方をサポートしたり、機密情報に触れたりする際に細やかな気遣いと柔軟性で対処してきたであろう、その能力の高さがおのずと見えてくる人である。(中略)

 しかし和こさんの賢明さは俳句という世界最短の詩を、自我の把握をすることから始めたのだ。それは身ほとりの観察、すなわち身ほとりの起き臥し的な句材を選りつつ、一種の自画自賛化を試みることで、諧謔の詩、つまりイロニーを獲得することができた。反語的に真意、真情の在り処が仄かに立ちあがってくる。この俳句的方法を身に付け、表裏が見える幅の広さを獲得した。


  とある。また、その著者「あとがき」には、


 私はかけがえなのない友人を二人失くしました。一人は俳句の縁に導いてくれた友であり、一人は俳優の范文雀です。二人とも才能豊かで真っすぐで何事にも真摯に立ち向かう姿がそっくり、輝かしい未来が開けるはずの命が病に斃れました。私が挫けそうな時に立ち直れるのは、この二人への想いからです。

 また、前途を見失いそうな私を励まし寄り添って下さった先輩に、友に、背中を押されて今日までまいりました。


 ともあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


   戸籍とふ生生しきを春寒し       和こ

   軍籍の墓並列に冬ざるる

   ガラス器の底に沈めし青野かな

   擂粉木は代替わりせずとろろ汁

   鏡面を切り裂く小舟かひやぐら

   切株の哭く夜もあらむ寒昴

   われに声戻るくちなは消えてより

       山口

   七彩の海白秋を染め上げぬ

   海桐咲く海深深と忌を重ね

   草萌や生き行くものは影生みて

   ガラスペン言の葉の虹かけにけり

   早梅や風はひかりの私淑して

   烏瓜咲き無音界ひろげたる


  浦戸和こ(うらと・わこ)1937年 東京生まれ。



      撮影・鈴木純一「山別れティアラも金も呉れてやる」↑

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