2021年9月8日水曜日

抜井諒一「朽ちてゆくものの匂ひや秋の風」(『金色』)・・・


  抜井諒一第二句集『金色』(角川書店)、帯の惹句に、「第65回角川俳句賞受賞/待望の受賞第一句集」とある。平成28年から令和2年までの334句を収める『真青』(文學の森)に続く第2句集。最近では珍しく短い(それでも、龍太あたりと比べると長いが‥)著者「あとがき」には、


  例えば、いま目の前を飛んでいる一匹の蠅が、自分の人生を変える存在になるかもしれない。

 俳句を作っていると、つくづくそんなことを思う。


とある。因みに集名に因む句は、


  日当たりて金色となる冬の蠅     諒一


である。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  秋の雲あとかたもなき青さかな

  対岸や壁の如くに虫の闇

  一斉に猫の振り向く月の路地

  鯉の背に止まるつもりの蜻蛉かな

  向いてゐる方へは飛べぬばつたかな

  水明かり落葉明かりと流れけり

  保育器の中でくさめをしてをりぬ

  子は眠り風船眠つてはをらず

  木洩れ日の中の人影花の影

  吹ききれぬ蒲公英の絮渡されし

  遠蛙ときをりすぐそこの蛙

  日輪と海一色の大夕焼

  すれ違ふ会釈も熊鈴も涼し


 抜井諒一(ぬくい・りょういち) 1982年、高崎市生まれ。



     撮影・中西ひろ美「秋一日草色の向かうへ行かむ」↑

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