2021年9月7日火曜日

小林邦子「ポケットのない淋しさどんぐり拾う」(『無伴奏チェロ』)・・・

 


 小林邦子第一句集『無伴奏チェロ』(現代俳句協会)、序文は山﨑十生、その中に、


(前略)邦子さんが「紫」に登場したのは、二〇〇四年であるから、かれこれ十六年余の歳月を経たことになる。その間、ひたすら己がスタイルを枉げることなく作品を発表し続けた。誰にも真似の出来ない独特のスタイルだけでは、第三者に感動を与えることは不可能に近い。それを邦子さんは、やすやすとやってのけて「紫」の最高賞である「紫賞(作品賞)」を獲得し今日に至っている。「やすやす」と書いたが、他人には、そのように見えるだけで、日々、もがき苦しんで作品を書いているに違いない。(中略)その姿を他人には見せずに常に努力を怠らない作家である。(中略)

   八月十五日笑っていても腹は減る

 日本人にとって、一九四五年八月十五日は忘れられない日である。忘れてはいけない日である。大分以前に「昭和元禄」まどというお気軽な言葉が流行ったことがあったが、平成、令和の時代に入っても同様の浮ついた人間の多くいることは否めない。そういう人種に対する怒りを正面から言わずに〈笑っていても腹は減る〉と表現することで八月十五日の問題意識を見事に表出している。


 とある。また、著者「あとがき」の中には、


(前略)「Ⅲ」の中の一句、「セクシーファッションは大雪への備え」は浦和駅前のパルコでの句会に恐るおそる出したのですが、主宰の並選の○を頂きました。自分の感じたことを素直に表現していいのだと改めて嬉しかったです。このパルコの正面入口の頭上では、いつも六、七頭身のマネキン達が最新のファッションで迎えてくれます。その白い、長い脚をとても羨ましく見上げておりました。

 とあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  明日は雨水の電燈を消しました       邦子

  かけくるをんなの白さ驟雨かな

  黴だから武器を持つ手がありません

  回らない走馬燈それでも点す

  いつも地に足のついてる蟻の列

  そこは突かれたくないとこ寒椿

  豆を撒く単純なことは難しい

  桃の花職業欄の姫にマル

  残念ながら人に生まれて青き踏む

  逃げ水や逃げられるとこまで逃げる

  しゃべり続けている八月十五日

  芒にも硬派と軟派あるようだ

  赤の言い分を聞いている白い息

  十二月八日の副作用はめまい

  まっすぐな木ではつまらない雪が降る

  尖っているけど柔らかい氷柱


 ところで、最後に「紫」9月号より、もう一句、


  堂堂と駆引きのない石清水


 小林邦子(こばやし・くにこ) 1942年、東京都生まれ。



      撮影・鈴木純一「菅、部活やめるってよ。マジか?」↑

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