2016年6月3日金曜日

秋尾敏「滑空の先の昂揚夏つばめ」(「軸」6月号)・・・



「軸」の表2は「俳人筆蹟」と題して、古今の俳人の墨蹟を紹介している。多くは鳴弦文庫(秋尾敏)に所蔵された品からの紹介であろう。今号で385回とあるから、毎月掲載され続けたとして、単純計算して36年近く継続されてきたことになる(「軸」通巻は594号)。
今号は先般急逝した大畑等の色紙(藤田富江氏蔵とある)である。句は、

  家々に灰存在す茄子の花     等

大畑等は昭和25年6月20日~平成28年1月10日)、享年65。和歌山県新宮市生まれ。現代俳句協会ではその実務的な能力、人柄、人望もあり、さらに現代俳句協会組織の今後を担うべき人物として期待されていた。先年、現代俳句協会編で出版された『昭和俳句作品年表(戦前・戦中編)』でも、編集委員として、宇多喜代子・寺井谷子・安西篤・川名大・江中真弓ともどもその一翼を担った。
「軸」のもう一つの読み物は、不勉強の愚生には、なくてはならないような連載が、秋尾敏「選句入門」である。すでに6回目。
選句入門はまた読者論でもあると展開する秋尾敏は、時代とそれらの関係を実に明解に語ってくれる。例えば、外山滋比古の「近代読者」について記した件などは、以下のように述べる。

 しかし、一方で、読者を作者の下に置き、自由な解釈を制限したのも「近代」という時代であった。特に第二次世界大戦中はそうであった。すべての文章は、国家の思惑に従って読むことを強制された。
 たしかに近代は、近代的自我という自立した精神を人々にもたらした。だが、一方で近代国家は、人々をその枠組みに収めようともしたのである。

 選句入門の実践編は、もちろん主宰にとっては同人の選句に表われる・・・「紅耀抄」(秋尾敏選)いくつかを紹介しよう。

   サバンナ遠したてがみに桜しべ    荒木洋子
   黎明のシマトネリコに告ぐ五月    赤羽根めぐみ
   雲溶けておぼろに開く更紗木瓜   勝山喜美子
   神妙に雨をくずして藪椿        栗山和子
   逃水やひどく乾いている命      宮川登美子   






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