2019年3月22日金曜日

加藤智也「朝寝する寿限無を起す母の声」(第189回「遊句会」)・・・


          渡辺保お手製の蕗味噌↑

 昨日、3月21日(木)は第189回遊句会(於:たい乃家)だった。兼題は陽炎・寄居虫・朝寝。高点句は三名同点だったが、今回のタイトル句には加藤智也「朝寝する・・」を掲げた。
  いつも句会報をすばやくまとめて送って下さる山田浩明兄のコメントには、以下のように記されていた。無断で引用する(許されよ!)。
 
ところで、寂しいお知らせが一件。
石飛会長のご母堂が逝去されたそうです。
もう数日で106才になられるところだったと聞き計算すると
お生まれは大正2or3年。そして今が平成の最終年ですから
大正・昭和・平成をほぼフルに生きられたという事なのですね。
この間の時代の変遷を想うと、感慨深いものがあります。
(ゆるい坂をぼんやり下って悦に入っている場合じゃ無いナ)
  
遊句会も次回が第190回。
ハッキリ言って、すごい事ですよ。
行きましょう、みんなで200回、240回目指して。
もちろん会長はず~と トビさんです。        山田

句会風景の写真を撮り忘れたので、渡辺保の本人の手造り土産・蕗味噌のショットにした。 ともあれ、以下に一人を挙げておこう。

   はや八年更地に陽炎ふ人影(かげ)も無く    橋本 明
   朝寝から孤独死までのゆるい坂         山田浩明
   やどかりが派手なシャツ着て波見てた      川島紘一
   後朝(きぬぎぬ)の別れのなくて朝寝かな   原島なほみ
   陽炎に音なく揺るる富士の山         山口美々子
   家人みな出掛けるまでの朝寝かな        石川耕治
   朝寝して時代(とき)の主流を外れけり     武藤 幹
   高館(たかだち)の陽炎は兵(つわもの)の吐息 渡辺 保 
   陽炎やゆれる大橋人力車            加藤智也
   寄居虫逝き空家三軒かえす磯        たなべきよみ
   陽炎を体調不良と思う齢           中山よしこ
   ヤドカリがめがねをかけて本を読む      春風亭昇吉
   タイムカード押す夢を見て朝寝かな       林 桂子
   手のひらで寄居虫そっと半身だし        前田勝己
   やどかりに波の枕と太陽と           大井恒行




★閑話休題・・各務麗至「桔梗」(『季刊文科セレクション2』より)・・


 各務麗至はかつて独自の美意識を込めた俳句を書き、三橋敏雄監修の『壚拇(ローム)』にまとまった俳句作品が収載されていた。現在は、もっぱら小説を執筆し発表している。「季刊文科」71号には「瀞」、そして季刊文科セレクションには「桔梗」が選ばれている。佐藤洋二郎の解説を以下に引用して紹介しておこう。

  各務麗至の「桔梗」は父親に愛人がいてこどもまでいる。父母の諍いは絶えない。そのことで母は亡くなり、継母が家に入ってくる。幼い少女は彼女を嫌いいじける。人は親を選んで生まれてこられるわけではないし、まして生きる環境を望んで、この世に生を享けるわけではない。しかし、わたしたちはなにがあっても、あるいは劣悪な環境でも生きていかなけれなならない。なぜなら生きている間が人間だからだ。生きていれば潮目は変るし未来もひらけてくる。(中略)
 やがて主人公は独りで喫茶店をやって暮らしていくが、借主の大家から思いもかけない彼らの秘密を知ることになる。苦労して生きてきた継母や幼かった父母の生い立ちを、同級生だった大家から教えられた主人公は茫然とするが、作品は慈愛に満ちた上質の短編だ。やさしさは人間だけが持つ特権だが、小説はよく練られていて、人間の複雑な感情をやわらかく捉えていて秀逸な作品だった。
 
 愚生は、彼の小説を幾編しか読んでいないが、いずれも清しい読後感があり、その意味では、人の生きる希望が込められているように思える。

 各務麗至(かがみ・れいじ) 1948年、観音寺市生まれ。


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