2019年3月30日土曜日
玉川義弘「猪の罠雪花菜たつぷり撒きてあり」(『十徳』)・・・
玉川義弘第一句集『十徳』(邑書林)、序は小川軽舟、それには、
《猪の罠雪花菜(きらず)たつぷり撒きてあり》、雪が積もったように撒かれたおからが匂いたつようだ。腹を減らした猪はたまらず罠に導かれていくのだろう。《明日からは害獣駆除や猟期果つ》、猟期が終わっても猟師には害獣駆除の要請が来る。過疎地の農業は田畑を荒らす獣との戦いである。言われてみて初めて気づく地方の現実が描かれている。(中略)
いちにちのけじめの酒やをとこへし
酒を呑みまじめを通す小春かな
百姓の酒の十徳冬至来ぬ
なまけて酒を飲んでいるのではない。真摯に農業にいそしめばこその酒である。「いちにちのけじめ」、「まじめを通す」、そして「酒の十徳」とまで言われれば、これはもう玉川さんの人生哲学なのだ。
とある。著者「あとがき」には、
農林水産省農業者大学校を昭和四十八年三月に卒業し、就農した。苺栽培を始めた。
就農してみると人との交わりは、農協・役所も含めてすべて農業に携わる人達であった。
何か異業種の人達を交わる場はないものか、考えたあげく町の生涯教育の一環として俳句講座が一年前に開講されており、これに加入した。
とあり、句にも農業用語が多く出てくるし、いわゆる業界用語?は辞書にも出ていない。字が読めない、意味がよく理解できない句もあったが、句の姿が良いので、その言葉のリズムや雰囲気で味わった句も多い。例えば、
浅春や畔川浚ふ出合布令 義弘
峯雲や穂孕みの田へ力肥
朝摘みし薇を干す一ㇳ筵
籾摺るや養疴の父の誕生日
氷解け土竜威しが風に鳴る
水戸口を祀りし幤や蠑螈浮く
初猟の小屋台秤竿秤
猟小屋や腑抜の猪を瀬に晒す
尻水戸に嵌め込む板や鶫引く
六代の隠れ棲みし地ととき咲く
就農とほぼ同時に俳句に関わりをもち、長い句歴と生活に密着した句群はいまどき貴重な思いがする。ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
猪垣を解いて冬田となりにけり
初音して尼出支度や嶺の寺
弾痕のまざまざと猪吊られあり
草氷柱けものの糞のつややかに
稲を刈る暑さ尿の黄なりけり
狩座の朝の静もりただならず
時計なり昼寝の国を出づるなり
猪裂いて湯気立つ腸を鷲掴み
猪捌く小屋へ新たに撃たれ鹿
走り穂や雀威しの糸を張る
酒の毒臓腑より抜け青簾
田に四隅あり一隅の余苗
猪裂くや胃の腑に溜まる穭の穂
門松の竹伐り供華を剪りにけり
玉川義弘(たまがわ・よしひろ)、昭和21年、三重県一志郡米ノ村(現松坂市)生まれ。
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