2021年3月1日月曜日

鳥井保和「吃水に昆布躍らせ船戻る」(「星雲」終刊号)・・・


 「星雲」第58号・終刊号(星雲俳句会)、巻首、小川望光子「『星雲』終刊宣言」に、


 (前略)突然なことでしたが、「星雲」主宰鳥井保和は持病の肺気腫(慢性閉塞性肺疾患COPD)の急変により、令和二年十一月三日に帰らぬ人となりました。主宰の遺言に、「星雲」は一誌一代、終刊を願うが、もし誰かが「星雲」の俳句精神を継いでくれるなら、誌名を変えて創刊するのは吝かではないとありましたので、ここひとまず「星雲」の終刊を宣言し、終刊号を発刊します。

  一師一代一生誓子曼珠沙華    保和

  愚直にも誓子一筋曼珠沙華         (以下略)


 ブログタイトルにした保和「吃水に昆布躍らせ船戻る」(第二句集『吃水』より)は、「季節の一句」と題した花尻万博の筆になる。それには、以下のようにある。


  鳥井さんことを先生と一度も呼んだことがない。私の中では鳥井さんは鳥井さんだ。「花尻君は句はいいんだから・・・」と私の句界での立ち回りのまずさをいつも心配してくれた。また大きな賞の締め切り前になると「〇〇賞には応募しましたか」とは言わずに、遠回りな催促をこまめにくれた。本当に何も恩返しが出来ないままに終わってしまった。私は大馬鹿者だ。

 伝統を、守り続けることでしか踏み込めない領域があるとするならば、それは右句のことか。躍らせの措辞がひとしお豊漁の喜びを伝える。吃水は第二句集の名前にもなった。一番好きな鳥井さんの句、今号との季違いを承知で取り上げた。


 また「星雲」編集長・小川望光子の「編集後記」によると、


 (前略)後継誌を鳥井保和の名前にちなんで「鳥」と名付けました。卵のままで終ってしまうのか。生まれて大空に羽ばたけるのか。皆様のお力をお貸し下さい。

 鳥井保和の第五句集を遺句集として出版したいと思っています。句集名を『星雲』と名付けようと思っています。きっと喜んでくれると思います。


 とあった。順不同とあって、愚生も寄稿したが、橋本白木、山田佳乃、広渡敬雄、柘植史子、小泉博、矢須恵由、田島和生、林誠司、坂口昌弘、石井いさお、長嶺千晶、河村正浩、佐怒賀正美、松尾隆信、小林貴子、浅井民子、大竹多可志、また、会員の方々など、じつに多くの方が追悼文を寄せている。深悼。



★閑話休題・・・大井恒行「こんなに青き冬の陽射しの青バナナ」(府中市生涯学習センター・現代俳句講座ー宣伝パネルより)・・・




  
 昼前に、ウォーキングして、たまたま、少し足を延ばして、愚生の家からは、少し遠いが、府中市美術館を過ぎて、生涯学習センターまで歩いて、館内に入った。あろうことか、受付の近くに、5~6月の現代俳句講座と現代短歌講座の募集のために、担当の方が宣伝パネルを作ってくれていた(上掲写真)。現代短歌は加藤英彦(1954年生まれ)、第一歌集『スサノオの泣き虫』(ながらみ書房)では、一行の思想詩とも言われた歌人らしい。昨年、第二歌集『プレシピス』(ながらみ書房)を上梓されている。少し調べたら、先般亡くなられた松平修文に私淑されたともあった。松平修文には、愚生の若き日に、歌集『水村』、さらには現代俳句シンポジウム(南方社版「現代俳句」)の折に、テーマ「短歌と俳句」で、お世話にもなった人だ。想い出深い。ちなみに、パネルに出ていた愚生の句と、加藤英彦の短歌を以下に引用しておこう。


  こんなに青き冬の陽射しの青バナナ        恒行
  食パンの耳に棲みたる虎落笛
  鬼滅さてウイズコロナ新ワクチン

  すれちがう風の行方を占えば西空高くひるがえる凧       英彦
  灯油もきれて冷えたる部屋の窓のむこう冬の海がすこし膨らむ
  別れぎわのかばんにきみが夜食にてと握りてくれしむすびが二つ



     撮影・鈴木純一「モーニングの卵はキミに先に行くね」↑

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