救仁郷由美子「安井浩司『自選句抄 友よ』の句を読む」(8)
有耶無耶の関ふりむけば汝と我 浩司
「有耶無耶の関」は、山形、宮城の県境にあるか笠谷峠にあった古関。出羽、象潟の関にも同名の関があった。「象潟にねぶりの西施生きること(『牛尾心抄』)など、安井に象潟を詠んだ句がある。秋田出身の安井の帰路に象潟を考えれば、出羽、象潟の関であろう。
象潟や雨に西施がねぶの花 芭蕉『奥の細道』
芭蕉「象潟や」の句に安井の「象潟に」の句を合わせて詠めば、「汝と我」の下五の句から、芭蕉、安井の存在も見えてくるのではないか。
なおも、心身、肉体の我と、我の内面に存在する汝。幻想と実存における汝と我。芭蕉と自己、そして、内面の自己と己。芭蕉も内面の自己が俳句であるとき、俳句対私の存在は、有耶無耶で曖昧な存在である。荘子の胡蝶の夢のごとく、俳句と自己は同一であることの、心情吐露の一句。そして、安井は「無」であるという。芭蕉の禅を考えずとも、安井の「無」であれば、禅の心が存在を支えていることも、思い合わせて考えたい句である。
第十句集『汝と我』一九八八年所収。
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