「六花」VOL.6(六花書林)、特集は、前号に続く「詩歌を読む 続」。「少し長めの編集後記」に、
『六花』vol.5から一年経てのvol,6の刊行である。創業十七年目に入り、年一回の定期刊行を何とか続けることができた。まずは喜びたい。
とあって、今年は、創業十七年目にして、一ヶ月の間に評倫集2冊、松村正直『踊場からの眺め』と三枝昂之『跫音を聴く』を立て続けに刊行したとあった。着実な歩みである。
ブログタイトルにした山頭火の句「さて、どちらへ行かうか風が吹く」は、本誌中、橋本直の連載「とっておきの詩歌書⑤」からのものである。その冒頭に、
世の中がバブル経済と言われた八〇年代の終りから九〇年代にかけてのこと、空前の好景気を背景に、ちゃらちゃらした軽薄な世相となったカウンターカルチャー現象であったものか、何度目かの種田山頭火ブームが起きていた。(中略)それは自分がちょうど大学生のころで、世のちゃらちゃらした雰囲気をそれなりに受容しつつ、なるべく一人であることを好み、バイクであちらこちらツーリングしてまわるのを趣味としていた。そして、そういうバイク乗りの嗜好する孤独とか自由とか放浪の気分が山頭火のありようと合うと思ったのだろう。
とあり、結びに、「一番最初に買った句集は、いつだったか誰かに譲ってしまったが、今や山頭火の句集はこんなに世に出ている。三十年も経つと隔世の感がある」と記されている。
その通りだが(橋本直は、愚生と20歳ほど違うが)、愚生が、最初に山頭火の本を手にしたのは、すでに53年前になる。どこにも山頭火の本が無かったころだ。和綴じの『草木塔』と『其中庵日記』だったと思う。それは、愚生が20歳、わずか1年で離婚することになった最初の妻の実家の山口市の寺(曹洞宗)の本棚にあった(愚生が仏前結婚式をあげる前日。禅宗だった大山澄太との交流があったのだろう)。すべて大山澄太が刊行したものであった(大山澄太無くしては、山頭火の書物は残らなかったとおもわれる)。それを貸してもらい、持ち帰った。その2冊を種本にして、何とか山頭火を世に紹介したいと思い、当時、「立命俳句」を創設し、京都新聞社に勤めていた故・さとう野火に見開き2ページ分、山頭火について「立命俳句」に書いてもらった。しばらくして、永六輔がラジオで山頭火について語り、瞬く間に山頭火ブームが訪れた。村上護の山頭火の評伝によって多くの人たちに読まれることになったが、村上護から、生前に澄太との確執ががあったとも聞いた。その山頭火の本は、結局返すことなく、他の句集類と生活の足しにと古書店・B書院に売った。愚生が山頭火を知ることになったのは、防府高等学校に一学期だけ通ったことがあり、そのとき、近くの公園の叢のなかに「雨ふるふるさとははだしであるく」という句碑があったことと、地元の高校の文芸誌に、中原中也と嘉村磯多と山頭火の特集があったからだ。それにしても、山頭火など知る人もなく、それこそ「ホイトウ」(乞食)と呼ばれていた名残すらあった。愚生の田舎では、よく門付けする僧もいた。愚生は、故郷を出てからというもの、これまで数回しか帰郷せず、いまだに、叢に苔むした句碑のことしか脳裏にない。
ともあれ、本誌本特集の執筆陣は26名、吉野裕之「いつもたいへん」、なみの亜子「問い続けたい」、山西雅子「詩を読んだころ」、中津昌子「岡井隆の庭で」、黒瀬珂瀾「遠い誰かと」、中岡毅雄「『展開図』を読む」、藤野早苗「一杖」、喜多昭夫「顔と心臓ー『みじかい髪も長い髪も炎』を読む」、横山未来子「個人を超えて」、宮崎斗士「散りばめて」、真田幸治「小村雪岱と佐佐木信綱」他である。文中より、短歌、俳句をいくつか以下に挙げておきたい。
いや無論くらく濃く立つ葉脈を昔(むかし)通ひゐし水のことさ、ね 岡井 隆
乾葡萄のむせるにほひにいらいらと少年は背より抱きしめられぬ 塚本邦雄
四十歳のわが暗濁のおもしろさみどりの蘭の蜜をば舐むる 森重香代子
はぎすすききやうのあきの風の朝われはめざめん鞄のなかに 小島ゆかり
花びらの裏側ばかり見るようにわたしをなぞるきみの舌先 平岡直子
さまざまに見る夢ありてそのひとつ馬の蹄(ひづめ)を洗ひやりゐき 宮柊二
遺品館を出てたる父は「字がうまいものだな」と言う 言いて黙せり 吉川宏志
折針を陽にかざすときわが脳に折針の黒き影は落ちゐつ 葛原妙子
雪でみがく窓 その部屋のみどりからイエスは離(さか)りニーチェは離る 酒井修一
ジャージーの汗滲むボール横抱きに吾駆けぬけよ吾の男よ 佐佐木幸綱
桜咲く指輪は指に飽きたでしょ 池田澄子
古書店に力士来てゐる朧かな 川越歌澄
メビウスのそこが最果て酌み交す 夏木 久
産む前の深息いくつ雪解川 神野紗希
でで虫は悲の渦ゆるめては生きる 若森京子
骸骨につづく歯並び沢庵噛む 杉浦圭祐
甚平といふ精神に腕通す 石倉夏生
吾がからだぴつたりの穴つちの穴 堀田季何
撮影・鈴木純一「青い目になった手袋なくなした」↑
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