小山正見句集『大花野』(朔出版)、帯文は伊勢真一(映画「妻の病」監督)、
ここはどこあなたはだあれ大花野
全三十六句、まるで「映画」のようだ。
声が聞こえてくる・・・
「あなたはだあれ」のささやかき声が
大花野一杯に響き渡る。
ほら。
また、著者「あとがき」には、
妻邦子の異常に気付いたのは、東日本大震災の翌年、ニ〇一二年のことである。検査の結果、アルツハイマー型の認知症であることがわかった。
それから十年が経った。妻の病気は今なお進行している。ある時は穏やかに、またある時は急激に。(中略)
妻と私は、一九七二年に結婚した。来年で五十年になる。
病気が進んでも、妻は「あなたのはあるの?」といつも私を気遣ってくれた。
この歳まで楽しく暮らしてきた。存分に生きた。
妻に感謝している。
深く愛している。
暗闇に極彩色の大花野
とあった。集名に因む句は、「ここはどこあなたはだあれ大花野」からであろうが、「あとがき」の末尾に添えられた句も切ない。ともあれ、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。
妻邦子発症
十二月八日CTスキャンの脳画像 正見
クリスマス来る筈のなきプレゼント
松落葉一分おきに聞く時刻
家中に蟲身体中に蟲蟬時雨
家に居て帰るてふ妻秋彼岸
つい怒鳴る虐待に違ひなき暮
気休めのピンクの薬去年今年
また一つ星を消したる朧かな
小山正見(おやま・まさみ) 1948年、神奈川県川崎市生まれ。
芽夢野うのき「病むもの寄り添う椿のひらき方」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿