2022年2月23日水曜日

小山正見「身代はりの風船数多数多割る」(『大花野』)・・

  


 小山正見句集『大花野』(朔出版)、帯文は伊勢真一(映画「妻の病」監督)、


     ここはどこあなたはだあれ大花野

  全三十六句、まるで「映画」のようだ。

  声が聞こえてくる・・・

  「あなたはだあれ」のささやかき声が

  大花野一杯に響き渡る。

  ほら。


  また、著者「あとがき」には、


 妻邦子の異常に気付いたのは、東日本大震災の翌年、ニ〇一二年のことである。検査の結果、アルツハイマー型の認知症であることがわかった。

 それから十年が経った。妻の病気は今なお進行している。ある時は穏やかに、またある時は急激に。(中略)

 妻と私は、一九七二年に結婚した。来年で五十年になる。

 病気が進んでも、妻は「あなたのはあるの?」といつも私を気遣ってくれた。

 この歳まで楽しく暮らしてきた。存分に生きた。

 妻に感謝している。

 深く愛している。

   暗闇に極彩色の大花野


 とあった。集名に因む句は、「ここはどこあなたはだあれ大花野」からであろうが、「あとがき」の末尾に添えられた句も切ない。ともあれ、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


     妻邦子発症

  十二月八日CTスキャンの脳画像       正見

  クリスマス来る筈のなきプレゼント

  松落葉一分おきに聞く時刻 

  家中に蟲身体中に蟲蟬時雨

  家に居て帰るてふ妻秋彼岸

  つい怒鳴る虐待に違ひなき暮

  気休めのピンクの薬去年今年

  また一つ星を消したる朧かな


 小山正見(おやま・まさみ) 1948年、神奈川県川崎市生まれ。



      芽夢野うのき「病むもの寄り添う椿のひらき方」↑

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