上田信治『成分表』(素粒社)、帯文は保坂和志、それには、
小さい物を見ているときも、/足元にある物を見ているときも、
上田さんの心はつねに/高い空やそのまた先にある/天体を仰ぎ見ている。
愛や勇気や生きるモラルが/この本を貫いている。
とあった。また、著者「あとがき」の中に、
「成分表」というタイトルは、日々おもうことをその成分に分解して考える、というつもりでつけた。(中略)
一冊にまとめるにあたって、かなり改稿した。
とある。初出は、愚生も、その表3の連載はけっこう楽しみにしていた同人誌「里」2006年1月号から2018年12月号とウェブマガジン「週刊俳句」2021年2月14日号である。「『成分表』は、まだ半分残っている」というから、別にもう一本の上梓が待たれる。一話一話に起承転結があって、一部分を引用紹介しても、その面白さは伝わらないだろうから、是非、本書に直接、当たられることをお薦めする。とはいえ、「四十九 蓼食う虫」の一部分を紹介しておこう。
日常生活を舞台に漫画を描くという仕事を、夫婦で二十年以上続けている。
仕事の中心は「思い出す」ということで、大過去や近過去の一場面について、何かを見つけては形にすることの繰り返しだ。自分の記憶はとっくに描き尽くしてしまって、もう一個人生があればいいのにと、それは何度も思った。
特別な経験や感動の記憶が欲しいわけではない。ただ、自分ではない誰かが生れてから過した膨大な普通の時間ーわたしたちが別の何かを見ていた時に、その人がその人の人生でみたものの、手つかずの記憶がもらえれば、また二十年分のアイディアが作れる。
そう夢想するのだけれど、じつは人からもらったネタで漫画が描けることはごくまれで、これまで千話近く作ってきて、片手で数えるほどしかない。
きっとお互いどうし、蓼食う虫なのだろう。
人と人で、気を引かれるものや大事なものが、おそろしいほど違うのだ。
夫婦の夫は上田信治、妻は漫画家・けらえいこ。また、巻末には「出典、注、追記ほか」、「俳句作者一覧」が付されていて、これも興味深い。例えば、島田牙城の部分は、
【島田牙城】しまだ・がじょう(1957-)「成分表」は、この人の俳誌「里」で長く連載した。たいへん感謝している。〈満月を明日につまやうじの頭〉「灰皿」
という具合。「灰皿」というのは、本集に収められたエッセイの題である。ともあれ、以下に文中より、著者のいくつかの句をあげておきたい。
入口にハンガーのある落花生 信治
椎茸や人に心の一つゞつ
萩日和大きな音はバケツから
吸ひがらの今日の形へ西日さす
上田信治(うえだ・しんじ) 1961年、大阪生まれ。
芽夢野うのき「土竜塚父の泣き顔ににて困る」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿