2014年2月5日水曜日

榮猿丸「梢までむささび駆けぬそのまま跳ぶ」・・・


榮猿丸、人を喰った俳号である。
由来は知らないが、一度聞いたら、なかなか忘れられない。
面白いと言えば面白い。
(愚生など年寄りには、昔、髙柳重信に本名で責任をもって書け、と言われたことがあるが、今ではペンネームも悪くはないと、少し羨ましくさえある。その重信だって、重信になる前に恵幻子と名乗っていた時期がある)。
その昔、平安初期の人で猿丸太夫は、生没年不詳の伝説的歌人?三十六歌仙の一人ながら実作と信じられるものは一首もないというから興味は尽きない。
上掲の句を収めた榮猿丸句集『点滅』(ふらんす堂)は、題簽・帯文は小澤實、栞文を正木ゆう子・髙柳克弘・藤本美和子。カタカナ表記や相聞の句に、その特質の一端、また描写力に讃を草しているが、それらには、読者諸兄姉が直接にあたっていただいて、すでに架空の恋くらいしか活路のない愚生は、以下の感銘句などを引いて、「俳句はかっこいい」という著者の心底に、いくばくかのニヒリズムの在りどころと、父なる存在へ風情の一端を思い、しずかに賞味しておきたい。

    飛びたてば羽搏きやめず初雀      猿丸
    日覆や通りの女すべて欲す
    動物園に糞を見にゆく昭和の日  
    ノートパソコン閉づれば闇や去年今年
    X線検査機通過す読初の『檸檬』と鍵
    自問ばかりやマスクの下のつぶやきは
    花冷の階に父子座す段違へ
    竹馬に乗りたる父や何処まで行く
    バナナの黒斑父の手に及びをり
    父の焚火見る二階より降り来ぬ子

終わりに、愚生の愛唱する句は、

    わが手よりつめたき手なりかなしめる
    炎天のビールケースにバット挿す

*「榮猿丸(さかえ・さるまる) 1968年東京都生まれ」


    

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