2018年12月30日日曜日

小林春代「瑠璃色の実を食ひけもの化かし合ふ」(『大田螺』)・・



 小林春代『大田螺』(現代俳句協会)、懇切な序文は宮坂静生。中に著者の句を評して、

  ことばが鋭角的なので、ぐいぐいと読み手に迫る。迫力がある。しかし、どこか自嘲に遊びがある。いうならば自分を貶めて楽しんでいるようだ。(中略)
 自嘲とは余裕がないとできないものである。自分を底へ貶めて底から這いあがる芸を見せる。そんな巧さがある。

 という。集名に因む句は、

  大田螺幸せすぎて地震来さう     春代

 この他にも、「大」の言葉を冠した句は意外に多い。それが自ずとユーモアを加えて、句柄を大きくしているように思う。例えば、

  冬帝やチャイコフスキー大序曲
  大欠伸して不覚にも蠅捕ふ
  大蟻の迷ひ込みたる胸の谷
  山涼し大虎杖の奥にこゑ
  大鯉に戒名あるや肝試し
  大女の哀しみや竹皮を脱ぐ
  十国峠跨ぎ山姥大嚏
  麦秋の風鳴り火星大接近

 という具合にだ。それに付会(「おおね」と読んで)だが「大根抜くたびに人の名を忘れをり」を加えても悪くないだろう。ともあれ、集中より以下にいくつかの句を挙げておこう。

  余荷解(よにげ)屋てふ質屋ありけり燕の巣
  綿帽子中に蕪のやうな顔
  虎杖やマグマの上にわが祖国
  蟇の沼落としてみたきものに斧
  鬱の穴ひとつひとつにダリア植う
  田の神の山へ凩まつしぐら
  台風の緒に摑まつて逝く人も
  子の消えてわんさわんさとつくしんぼ
 
小林春代(こばやし・はるよ) 昭和27年 長野県岡谷市生まれ。



★閑話休題・・谷佳紀「あ、いけないという日があってカレーうどん」(「つぐみ」12月号より)・・


 先日12月19日に急逝との訃をうけた谷佳紀の最後の作品7句が「つぐみ」(編集発行・津波古江津)12月号に掲載されていた。作品下段のミニエッセイには、世間では立派に老人だが、電車で席を譲られると困るという話だ。ウルトラマラソンで鍛えていた身体だからだろう。電車に乗る時「席を譲るのは不要です」という看板をぶら下げようかと冗談で思ったりする、とあった。その人が心筋梗塞で急逝するのだから命は分からない。他には、外山一機の連載「『歩行)の俳句史」を楽しみに読んでいたが、8回目の今回で最終回。また、鶴巻ちしろの連載「鶴巻ちしろの折文箱」(36)は、まだ続く。
 谷佳紀の句をもう2句・・

   人生はひらひら赤蜻蛉は軽い     佳紀
   喧嘩してきて背高泡立草ばっかり



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