佐川盟子第一句集『火を放つ』(現代俳句協会)、跋は池田澄子、その中に、
三月来そのときそこにゐなかつた
真葛原むかしイチエフありました
福島で育ち、其処に親も暮しておられたこの人が、あの日、「そこにゐなかつた」ことへの幸運と後ろめたさによって、一層、あるいは一生、彼女はこれからも表現者として育つ筈である。二句目は、強烈な厭戦の句「戦争が廊下の奥に立つてゐた」の渡邊白泉の、まんじゆしやげ昔おいらん泣きました」を踏まえたか、怖ろしい一句。イチエフは福島第一原子力発電所。
とある。あるいは、冒頭付近には、句集『火を放つ』は、その繊細さと、じっと視る能力、すぐに反応するのではない辛抱強さ、自分の視力に甘えず安心せず、よくよく見て考えて書き込んでいく粘着質な根性を感じさせる。そのことに加えて、一本長子ではない豊かな表現方法を駆使している。単に見たことを書き残す、思ったことを記す、だけではない、「表現行為」であるという覚悟が感じられる。
とも記している。装幀は著者自装である。多才なのかも知れない。ともあれ、愚生の好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。
一匹のまづ一本のくもの糸 盟子
古戦場売りに出てをり合歓の花
さがしあふひかりほうたるひかりあふ
霜をはむ犬としばらく朝の星
剥製のパンダ硬さう冬隣
流燈に添へ置きし手を離しけり
だしぬけに秋思ふりだしに戻る
やがて月がみな消す砂の足跡
少年に十代永し鮎の川
亀虫の動かぬ社員通用口
水の記憶火星にありと春の闇
朧夜の太鼓の紐の絞らるる
佐川盟子(さがわ・めいこ)1962年、福島県郡山市生まれ。
★閑話休題・・池田澄子「わすれちゃえ赤紙神風草むす屍」(『十七文字の狩人』)・・
池田澄子つながりで、大関靖博『十七文字の狩人』(ふらんす堂)、彼の主宰誌「轍」に平成16年3・4月号から平成27年11・12月にかけて連載された俳人22名の作家論であり、句集論である。学術論文集を除いて、第6冊目の評論集の上梓。この他に句集も6冊あるので、地味ながら、論作ともに着実な成果を世に問うている俳人である。本書の「あとがき」の末尾に、
(前略)この評論は平成という単一性をもつ。二十一世紀の世界的テーマは〈単一性と多様性(unity and diversity)〉といわれるが、本著の作家の多様性と句集の時代の単一性を思えば不思議と二十一世紀の人類の最大のテーマと一致するように感じられる。つまり本著が平成の時代の多様な作家論として認識されることを願望する。加えて新しい時代の令和の意味として〈美しい調和(beautiful harmony)〉ということが言われているが、本著も調和の一書としてればと願う。
とある。池田澄子論の題は第9章「鎮魂物語ー『たましいの話』」、第1章は「式部再来ー正木ゆう子『静かな水』、「豈」同人でもある山﨑十生は第8章「秘花朧朧ー『大道無門』」等、ほかに附録として「俳句と『武士道』」、「第二芸術論再考」を収載している。
撮影・葛城綾呂 ヒメヒオウギ ↑
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