小橋信子第一句集『火の匂ひ』(ふらんす堂)、著者「あとがき」によると、1996年から2018年までの245句を収載、その間、「泉」の綾部仁喜、「澤」の小澤實、そして、現在は、藤本美和子に師事し、俳句との出合いは、故・石田勝彦だったという。本句集の序文は藤本美和子、その結びに、
(前4句略)
踏青や嬥歌の山の双つ峰
雨だれの光の太き初景色
流星や縄文土器の一欠片
(中略)ことに五句目は産土常陸の国にある筑波山を詠んだ作品。故郷を離れ住んではいても、心中に常々仰ぐのは「嬥歌の山の双つ峰」の容姿であるに違いない。この産土に直結する「踏青」の心情もまた、母を思う心に繋がるものであろう。六句目の「雨だれの光」も七句目の「流星」もみな天からの恩恵。胸中にある産土の光景が作者の眼前の景となってあらわれるとき想念の花がひらく。信子俳句の真骨頂といえよう。
と記されている。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中よりいくつかの句を以下に挙げておこう。
またいつか会はむと母の逝く朧 信子
夕暮は山恋ふからすうりの花
まなぶたを打つて雪片失せにけり
棘さはにからたちの実の匂ひけり
絵の中の戦争に差す冬日かな
まだなにも飾つてをらぬ雛の段
金星の真下の杉や去年今年
霜柱師系はるかを思ひけり
蒜を干す晩年の日の光
人去つて冬蝶のこる峡の空
大島は波濤の向うとべらの実
小橋信子(こばし・のぶこ) 昭和23年、茨城県生まれ。
撮影・葛城綾呂 実八つ手 ↑
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