『 自註現代俳句シリーズ13期8「谷口智行集」』(俳人協会)、「あとがき」には、
三冊の既刊句集『藁嬶』『媚薬』『星糞』から自選三百句を集録。熊野大学で茨木和生先生と出会ったことがその後の僕の全てを決定づけた。俳句との関わりに留まらない生き方の悉くを、である。本書刊行を機にさらなる精進を重ねて行きたい。
とある。熊野大学といえば中上健次、早すぎる死だったが、愚生は、よそ目ながら、三鷹駅前にあった下は書店で二階が喫茶店「第九茶房」で時折見かけた。そして、若き日、坪内稔典の「現代俳句」に中上健次論を書かされたことや、後に、「俳句空間」(弘栄堂書店版)では、中上健次×夏石番矢の対談をしていただいた。また、ノートには、細かい字でびっしりと書かれていたことなどを思い出す。松根久雄の句集が書肆山田から刊行されたことも・・・。ともあれ、いくつかの自註と、他は句のみになるが、以下に挙げておきたい。
どこからとなき数へ唄久雄(ひさお)の忌 平成一二年作
松根久雄忌日は平成十年十二月七日。亡父と同級生であり、短期間だったが多くを学んだ。〈毬ひそと四辻よぎり久雄の忌〉。
忘れ霜(じも)食ふもんよーけ咲いとーよ 平成一八年作
『俳コレ』(邑書林)で高山れおな氏が「なんとも土臭い、それでいてウイットの利いた言い回しをしたものだ」と評してくれた。
十二月ひそかに鳶の餌付けして 平成一八年作
新宮市市田水門。投げ上げてたパン切れをもの凄い勢いで滑降して捉える鳶たち。餌付けは禁止されている。
弾丸喰(たまく)ひの一等(いっとう)怖ろしと 平成二三年作
急所を外された猪は獰猛である。猟師は「三枚目(・・・)の肋が猪の急所」と教えてくれた。「三本目」とは言わない。
似て非なり死と春眠の薄ら目は 平成二六年作
俯せ寝を強いられていると、いつ寝たのか分からない。看取って来た多くの人の薄ら目を思い出していた。
指を嗅ぐ少年蝶を放ちしか
この塀に健次も倚りき花通草(はなあけび)
すひかづらリストカットの少女たち
黴の医書よりひときれの新体詩
死んでなるものかと踊りやめぬなり
神涼し紀のわたつみのやまつの
飲食(おんじき)に哭(な)きいさつるも生身魂
草莽の医も句もよけれ酔芙蓉
谷口智行(たにぐち・ともゆき) 昭和33年、京都生まれ、和歌山県新宮育ち。
撮影・鈴木純一「毛の国の果てまで見えて冬入り日」↑
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