2021年12月30日木曜日

坪内稔典「老人は甘いか蟻がすでに来た」(『屋根の上のことばたち』より)・・


  坪内稔典『屋根の上のことばたちーねんてん先生の文学のある日々・弐』(新日本出版社)、「あとがき」には、


  二、三年で終ると思っていた。ところが、「ねんてん先生の文学のある日々」の連載は今なお続いている。月に一回、「赤旗」での連載なのだが、ときどき、この話題はほぼ同じことをすでに書いていますよ、と担当の平川由美さんからメールが届く。「あ、またも重なった。モ―ロク現象かなあ」と反省するが、実はさほど気にしない。好きな話題、好きな人、好きな本、好きな食べ物の話などは、なんどもしたくなる、それはごく自然な人情だ、と思っているから。(中略)

 以上、老化、あるいはモ―ロク現象を自己弁護しているみたいだが、まぎれもなく自己弁護である。老いに伴う人情を弁護している。ちなみに、人情とは「人間が本来持っている心の動き」(『日本国語大辞典』)だ。この人情を私は平川さんと共有している。といい気分に勝手になっているのだが。


 とあった。ここに登場する平川由美さんは、愚生が十年ほど前?、2年間月1回、「しんぶん赤旗」の俳壇時評を書かせてもらった時の担当の人でもある。ツボさん(仁平勝はいつもそう呼んでいた)は、若いステキな女性には弱いようだ。本書中の33話ある中の一部分になるが、以下に引用しよう。


  (前略)さて、アリだが、、今年(二〇一七年)はヒアリがニュースになり、ドラッグストアなどの行くとアリ用の殺虫剤が山積みになっている。よく売れているらしい。先年はデング熱を媒介するカ(蚊)が話題になり、公園などで大掛かりな駆除が行われた。今やアリもカも撲滅されかねない雰囲気である。

  眠いなあ蟻と十八歳と 

  蟻が来ている六十八歳のベッド

  老人は甘いか蟻がすでに来た

  老人は死体か蟻がすでに来た  (中略)

 カミさんは、「甘いものを食べて歯もちゃんと磨かないであなたは寝る。だからよだれにアリが来たんじゃない?」と笑った。たしかにそうかもしれないが、自分としてはアリを身近に感じた。撃退するよりも親友になろうと思ったのだった。

  蟻は蟻のうしろ姿を見て一列   鳥居真里子

  なやましきものの一つに蟻の腰  樫井賢一

  蟻が蟻を運んだり月曜の午後   三好万美  

  友情は膝の上だよ蟻たちよ    山岡和子

 私の俳句仲間の句を挙げた。(以下略) 


 坪内稔典(つぼうち・ねんてん) 1944年、愛媛県生まれ。



      芽夢野うのき「葉牡丹のもう何もほしくない渦」↑

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