2021年12月11日土曜日

龍太一「寒鯉の官能を水封じゐる」(『HIGH☆QUALITY』)・・・

            


  龍太一第2句集『HIGH☆QUALITY』(飯塚書店)、序文は高野ムツオ「宇宙と交感する思想ー序に代えて」、投げ込みの栞文は津髙里永子「秀句の裏側に迫る/龍太一句集『HIGH・QUALITY』に寄せて」、また、帯文は井上康明。津髙里永子の栞中には、


 龍太一氏の第二句集が刊行された。第一句集『セントエルモの火』を初めて拝読したとき、計三二八句すべてがNHK全国俳句大会入選句で成り立っているという、前代未聞の句集に私はしばし、茫然としていたのを覚えている。

  春はあけぼの初産の妻ねむり    平成十二年度大会大賞

                      (大串章・坪内稔典特選)

  しし座流星群野生馬は立ちて睡る  平成十四年度特選(金子兜太選)

  寒鯉の徹頭徹尾個に徹す     平成二十二年度特選(鷹羽狩行選)

  静電気帯び逆光の枯野人     平成二十六年度特選(坊城俊樹選) 

 (中略)

 「龍太一」という筆名が語っているように、飯田龍太に心酔して「雲母」に入会した作者だったが、家人の猛反対によって余儀なく中断されていたときも、決して俳句のことを忘れていたわけではないと伺ったことがある。(中略)ただ、再び龍太の教えを仰ごうとしたときはすでに「雲母」が解散されたあとだったとのこと。しかし飯田龍太が唯一、NHK学園俳句講座の監修者としても任務は続けておられたので、それゆえ、龍太一氏はNHK全国俳句大会に真摯に投句しはじめた。


 とあり、よく分析された評の小見出しは、それぞれ「一、肯定的な思いを忘れない」、「二、天への畏敬の念、地への感謝の念をわすれない」、「三、季語の確かさと新しい素材への挑戦を忘れない」、「四、先人たちの名句を忘れない」、「五、表現の押さえどころを忘れない」、「六、生と死へのやわらかなまなざしを忘れない」と的確である。著者の跋「合点引水(がってんいんすい)ー跋文に代えてー」の中に、


  そして、また繰り返しいうが俳句は師資相承の文芸であるが、この原則は「結社」であろうが、大規模な「大会」であろうが実のところ変わらない。ただ、違うことは、結社は主宰者かあるいは限られた範囲内の師資相承であるが、多くの選者の一堂に会しての大会では、心掛け次第で、より多くの選者との師資相承が結ばれることも可能であるということになる。(中略)

 なお本句集の標題は、わが俳句の生まれいづる「身辺折々」に由来し、その「英文」表記は、この句集を編む原動力をお与え下さった多くの選者の方々への深甚なる敬意と、一句一句に生命を吹き入れられたもととなる「品格」ある選句への深い謝意を表明させていただくものであることを茲に銘記させていただく次第である。


 とあった。「HIGH☆QUALITY」は「俳句折亭(はいくおりてい)」なのである。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。


   木枯の泪のやうな岬の灯          太一

   一筋の白を鼻梁に仔馬生(あ)

   人類の化石は未完天の川

   毛蟲にもひとにも背中地上急(せ)

   月下には兵士闇には市民ゐる

   薄目してこの世ありけり春霞

   ふる雪は飛天のみたま光堂

   惑星は触れ合はぬ同朋(とも)ヒヤシンス

   啞蟬のとはの緘黙敗戦忌

     

 龍太一(りゅう・たいち) 1943年、栃木県生まれ。



   撮影・中西ひろ美「冬晴のひかりは何ものにも負けず」↑

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