相子智恵第一句集『呼応』(左右社)、付録に、ウェブマガジン『週刊俳句』のデイリー版「ウラハイ」に2011年4月から10年間書き続けた「月曜日の俳句」より「時代といのち」を感じる句、一年一句を選び批評しているものを刊行記念冊子として同封してあった。
本集の序は小澤實、その中に、
集中末尾の句は次のものである。
群青世界セーターを頭の抜くるまで
「群青世界」と言えば、次の句が口をついて出る。
滝落ちて群青世界とどろけり
この那智の滝を詠んだ秋櫻子の代表句の「群青世界」を、セーターを着る瞬間の描写に使っている。俳句における本歌取り、なかなか成り立ちがたい修辞だと思うが、この句は成功しているのではないか。ある世界を一度壊した上で、別の世界を立たせているのだ。
とある。また、著者「あとがき」には、
十九歳で俳句に出会い、気づいたら四半世紀が過ぎていた。『呼応』は私の第一句集である。収録した最初の句は二十一歳の作。そこから個人的な区切りとして三十七歳の作まで、十六年間の三百二十六句を収めた。年の区切りは制作時ではなく発表時による。最後の句からは、すでに八年が経過している。
とあり、この後、つまり三十八歳から今日まで、約8年間の句が、まだ残されていることになる。その句集が待たれるところである。そして、集名については、
俳句を始めて数年が経った頃、我の中に我はない、ということが、すとんと腑に落ちた。自分とは固有のものではなく、対象との関係の中に、万物との呼応の中にあって初めて浮かび上がるものだと、その思いを集名とした。
とあった。ともあれ、愚生好みになるが、集中よりいくつかの句を挙げておきたい。
柳絮飛ぶこけら落としの日なりけり 智恵
手拍子に変はる拍手やクリスマス
家々に残雪ありぬどれも汚れ
春ショールなり電柱に巻かれしもの
木犀や漱石の句に子規の丸
金魚に名無くて「金魚のはか」とのみ
社旗国旗安全旗東風打ちゆけり
御降として荒荒と吹雪をり
蛇の衣まなこの皮もいちまいに
「いわきへ」「プロジェクト傳」の招きで
七月・九月の二回、被災地と文化財、民俗芸能を訪ねた
とことはに後ろに進む踊かな
片手明るし手袋をまた失くし
師より贐に「うすぐもりの寒しあまねく光満ち」の一句を賜れば
水に地にわれらに冬日あまねしよ
相子智恵(あいこ・ちえ) 1976年、長野県飯田市生まれ。
撮影・芽夢野うのき「万両やそこにも根をはりくれゆかん」↑
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