2017年8月28日月曜日

坪内稔典「びわ食べて君とつるりんしたいなあ」(「鬣」第64号より)・・



「鬣」第64号の特集は「俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進を巡って」である。ほぼ同時に店頭に並んだのが、「俳句界」9月号の特集「俳句のユネスコ無形文化遺産登録って何?」であった。さすがに「俳句界」は総合誌らしく、本家本元の有馬朗人にインタビューをしている。さらに「素朴なQ&A」で中心的役割を果たしている国際俳句交流協会に質問を直接ぶつけている。さらにけっこう面白かったのが、ユネスコ無形文化財登録団体へのアンケート登録して➀良かったこと、②困った事、③その他(登録時へのアドバイス等)を出していて、意外に正直に答えが返ってきている。本美濃紙(本美濃紙保存会)は➀も②も特になし、もちろん、アイヌ古式舞踊、秋田の田植踊、奥能登のあえのこと(農耕儀礼)など多くは知名度が上がり、保存への意識が高まった、中には③「登録されたからと言って補助金がでるわけではなかった」というものなど、具体的に参考になる。
インタビューで、有馬朗人は、

れは、私の考え方ですが、俳句の持つ”自然と共生する”という考えが世界にもたらす効果です。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教は喧嘩ばかりしている。その喧嘩している人達も俳句を作り、自然を詠えばお互いを理解しあえる。俳句は世界平和に貢献出来る、とわたしは考えています。

と至極まっとうに答えている。
 正式には「俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会」と言い、Q&Aで国際俳句交流協会の藤本はなが以下のように答えている。

 俳句では、俳人協会、現代俳句協会、日本伝統俳句協会が参加しています。また、自治体からは発足当初三十団体でしたが、その後も参加申し込みが続いています。(中略)
 また、この運動を支援する超党派の国会議員連盟も四十八名の参加をえて、五月には発足し会長には岸田文雄外務大臣(当時)が就任されました。

 さらに、最後に「反対の声もありますか?」には、

日本の俳句をユネスコに登録しようという運動ですから、趣旨に反対する声は聞いておりません。

 と語っている。



 しかし、「鬣」第64号の特集では、川名大、岸本尚毅、木村聡雄、坪内稔典、平敷武焦、林桂、外山一機、中里夏彦、西躰かずよし、堀込学などの各氏は、木村聡雄はその意義を認め、推進の意向だが、他はみな諸手を挙げて賛成というわけではなく、岸本尚毅は

「無季や自由律を含む俳句の多様性の尊重」が公的な書面で確認されることを条件とした上で、日本が詩歌を愛する平和な国であることを世界に宣伝するための「猫の手」として俳句が利用されることに対して賛成したいと思う
         (「俳句の『ユネスコ無形文化遺産登録申請について」)

 と現実的な対応の具体的選択枝を示している。
 坪内稔典は明確に反対を表明し、自らの作品「たぶんだが磯巾着は義理堅い」「尼さんが五人一本ずつバナナ」など5句を上げて、以下のように皮肉っている。

 私の句を挙げた。これらって、「世界平和に貢献できる」詩なのだろうか。なんだかはずかしい。
 このはずかしい感覚が、世界遺産にしようという運動に反対する私の根っこの感じだ。設立協議会の有馬朗人さん、鷹羽狩行さん、大串章さん、宮坂静生さん、金子兜太さん、皆さんははずかしくないのだろうか。(「俳句は遺産ではない」)

いくらでも、紹介したいのだが、このブログは狭量なので、興味のある向きは、是非、「俳句界」9月号、「鬣」(鬣の会)を読んでいただきたい。



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