2019年6月25日火曜日

柳本々々「童貞じゃなくなった日に玄関をとおると母のおかえりの声」(『短歌ください』)・・


 
 穂村弘『短歌ください 双子でも片方は泣く夜もある篇』(KADOKAWA)、「本書は、ダ・ヴィンチ』2015年11月号~2018年4月号に連載された「短歌ください」をまとめたものです」とある。著者「あとがき」には、連載開始から10年が経って、

 その年月の間に、投稿者の中なら歌集を出版して、いわゆるプロの歌人への道を歩みだした人も数多く現れました。彼らの活躍のおかげもあって、さらに投稿数が増え、全体のレベルが高くなっています。でも、そのハードルを越えて、新しい才能が次々に登場しています。息をのむような傑作に出会う喜び。短歌を全く読んだことのない人にも、本書のどの頁からでも開いて貰えれば、その魅力を実感していただけると思います。

 としたためられている。愚生は散歩途中で、新聞をよむためによく立ち寄る近くの新町文化センター図書館で「新着図書の棚」に面見せで置かれていたので、つい手が伸びてしまった。
 パラとめくると最初に、「豈」の忘年句会にも参加してくれた柳本々々の名が飛び込んできた。それで早速借りて、またまた、パラとめくると、柳本々々がけっこう入選していた。 入選歌には、穂村弘のコメントが付されているのだが、ブログタイトルにした短歌には、

 今回のテーマは、「童貞」または「処女」です。「このテーマは投稿するしかないと思いました」というテンションに充ちていました。

童貞じゃなくなった日に玄関をとおる母のおかえりの声
                     (柳本々々・男・33歳)
 一見なんということもない「母のおかえりの声」に、何故かどきっとしてしまう。いつも通りの「おかえりなさい」が、特別な意味を持って〈私〉の心に響いたのでしょう。

 とあった。また、

 私を取り上げてくれた産婆さん今なお処女で現役だって
                     〈はるの・女・28歳)
「数えきれないほどの出産を間近で見てきたからこその選択なのかもしれない」という作者のコメントがありました。確かに不思議な説得力がありますね。神話めいた味わいに惹かれました。
 
 というのもあった。ともあれ、以下は、愚生の知り合いのよしみで柳本々々の入選歌をいくつか挙げてこう。

 先生はほんとはなにをしてるひと? きわどいことをきいてくるなきみ
 信号のすべてが青で帰る日が五日続いて異変に気づく
 雪なのに雪なのに雪なのに雪みないで帰るほどに疲れて
 これでもかというハードなキスをしたあとにふつうの顔で乗る新幹線
 壁ドンをしてくる男子を払いのけ狼を撃つために帰った
 あたしたちゴミなんですかと面接の会場ぜんぶにに響き渡る声    (・34歳)
 ダンボールくださいのことば言えなくて包装屋さんで新品を買う

穂村弘(ほむら・ひろし)1962年、北海道生まれ。



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