2019年6月7日金曜日

小川晴子「麦秋や棒一本の国境」(『今日の花』)・・



 小川晴子第三句集『今日の花』(角川書店)、序は岩岡中正、その結びに、

  初刊の色美しき菊日和

 かつて地域が生きのびるために「いのち継ぎ」という言葉があり、私はさらに「ことば継ぎ」ということを言っている。「始めにことばありき」で、ことばは、いのちである。私たちは、ことば継ぎによって生きてきたが、本書も女系三代のことば継ぎの成果である。 
 掲句は、いうまでもなく「今日の花」創刊の自祝の句。

 と述べている。女系三代とは、中村汀女、小川濤美子、小川晴子のことである。また、著者「あとがき」のなかに、

 女系三代の俳句の道を歩むことは、宿命かと感じる昨今です。
 昭和四十五年頃、東京。代田の家の茶の間で、母と私が火鉢で寒餅を焼いていましたところに、祖母がすうっと横に座りました。寒餅を焼きながら、おしゃべりをしていましたら、祖母が言いました。
「お父さんやパパさんには悪いけど、こうやって三人だけで居るのは良いわねー」と。
 私は、その時の祖母の顔と声を今でも忘れられません。俳人として忙しい七十歳代の祖母が安らぐ家庭、家族の存在の大切な事を教えてもらいました。良き友と共に歩む俳句の道です。また家族の支えにも感謝しています。

 と記されている。もとより汀女の「風花」は、その出発がそうであったように、小川濤美子の時代にも圧倒的に女性の俳句雑誌だった。くわえて、高齢化の波も押し寄せているはずである。それでもなお、岩岡中正がいうように「心に響く、質の高い句」を目指して、「風花」を終刊にし、「今日の花」創刊への道筋を選択した小川晴子の未来に期待したいと思う。ともあれ、集中より、愚生好みではあるが、いくつかの句を挙げておきたい。

      江津湖
  母の歩に合はせ旅の日石蕗明り     晴子
     第13回全国女性俳句大会in北九州(門司)
  来年も訪ふを望みて花衣
  満月を窓に収めておきたしや
      母見舞う
  通ひ路に咲き初むる梅命乞ふ
  寒明の明日に染まり波止動く
  橋多き道の曲りや木下闇
  山の湖百年つなぐ揚花火 
     四月二十二日、母濤美子逝く、享年九十三
  ありがたうあなたの娘で夜半の春
  瑞兆や二重の虹の夕富士に
  夏の宮七本杉の八百年
  朝毎の鳥語に目覚め夏木立
  
 小川晴子(おがわ・はるこ) 昭和21年、千葉市生まれ。


0 件のコメント:

コメントを投稿