2020年10月19日月曜日

夏木久「灯を消せど出るに出られず今日の部屋」(『「組曲*構想」』)・・


 

 夏木久第4句集『「組曲*構想」』(ジャプラン)、著者略歴の中に、 「2016 第3回攝津幸彦記念賞・大井恒行奨励賞」とある。夏木久は、秦夕美の縁で「豈」同人に加わったのだが、その句の多彩さは、愚生の奨励賞を授賞したから言うのではないが、その歩みは着実である。「あとがき」には披瀝して以下のように述べている。


  ベートーヴェンに倣うなど何を考えてんだ、といわれそうだが、奇数番と偶数番(交響曲でなく句集のナンバーだが)で色彩が違ってきた。奇数は新作書下ろし、偶数は参加誌等への発表作をまとめたものとなりそうだ。あくまで生きていればだが・・・。第7句集までは構想がある・・・。

 よってこの第4句集は2016~2019、平成の終わりまでの参加誌などへの句でまとめた。第3句集「風典」の時期と、その前と後とを含めての作を構成し工夫してみた・・・?だけでは淋しいので、令和になってからの句を最後に加えた。(中略)

 最後にこの句集の発行日を10月10日にした。これは句集を出すなど考えもしなかった頃、初めて参加した結社が平成10年10月10日にスタートたことから考えた。そこを退会するまでの第1シーン。その後、現俳に参加、私家版ながら第1句集を出した第2シーン。この4句集までの第3シーン。そして次の第4シーン・・・。変わるか変われるか・・・。生きていれば愉しみだ。(以下略)


 ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。巻頭の句群には、詞書がある。


   2011年3月、初燕を見た明るい天空にJ・POPがヴェールのように流れ

   〈三階は日本語学校つばめ来る〉と呟いていた

   街の灯を束ね階下へとパンダ

 

   2015年8月、また会社を辞めた日にここぞと鰻を食いながら

   〈鰻丼を喰つて鎖国をしてをりぬ〉と呟いていた 

   月光莊ふたり招待されてをり

 

   〈駅裏の薬局裏の灯を掠め〉

   抱つこして春の月へと近づけり


  〈記念日と言われ澱みへサブマリン〉

   丁寧にこの日を折れば春隣


   その闇にこのやみ溶けず白椿

   空箱を開け凸凹の春の暮

   原子炉とパセリな夢の腐れ縁

   鈴を振る蝶が葉蔭で力込め

   朝顔は無理解のまま昼になる

   卵立てまた深刻な春隣

   

 夏木久(なつき・きゅう) 1951年大阪市生まれ。



        撮影・鈴木純一「忘レマシタカ私ハ今モ縷紅草」↑

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