2020年10月20日火曜日

竹村翠苑「ひかり号左席コミック右席岩波文庫われ昼寝」(『豊かなる人生』)・・・


  竹村翠苑第二句集『豊かなる人生』(朔出版)、集名に因む句は、


   プルーン捥ぐこの豊かなる人生よ      翠苑


 である。小澤實の親愛なる序の冒頭に、


  あらためて竹村翠苑さんの生業の農事の句が、すばらしい。農の句が、つくりごとではない。本気なのである。


 と記した後に、

  

   かたばみを咲かすな莢をつけさすな

   おほいぬのふぐり片つ端から抜き捨てる


 これらの句はかたばみやおほいぬのふぐりの可憐な花を愛でる俳人の眼ではない。花をつけ実をなすと爆発的に増えてしまうことを経験的に知っていて、花をみれば即摘み捨てているのだろう。この本気に打たれるのだ。


  乾きたる葱生き生きす植ゑたれば

  葱苗千本植ゑし余りや市に出す


 (中略)この「葱植う」「葱苗」ということばは歳時記には見えない。歳時記からではなく、農の土から直に発想しているわけだ。こういう句こそが貴重である。


 と、まっとうに述べている。また、著者「あとがき」には、


  俳句は私に、二回目の人生をもたらしてくれました。命そのものだと思っております。

 この度、第二句集『豊かなる人生』を上梓することが出来て、白寿の私は、一層元気になりました。神様に感謝いたします。


 とあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。


   恋と書き翁笑ひぬ筆始 

   ズボンと靴当世案山子足二本

   這ひ出でし蛙鴉の餌となりぬ

   蛇取りにけり結核の夫のため

   椋鳥群れ撓ふ電線日暮なり

   落林檎拾ひ集めぬ無言なる

   年の豆九十余り迚(とて)も迚も

   種蒔くも覆土も素手や千切れ雲

   我に未だ自然治癒力冬うらら

   無人なる天野さん宅木の芽張る

   団栗をまぶたにはさみおどけたり

   立葵俳句があつて死ねませぬ

   虎挟みの狸殺して流したり


  竹村翠苑(たけむら・すいえん) 大正11年、長野県北安曇郡生まれ。

     


       芽夢野うのき「宙に漂う花ともならず白蛾かな」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿