2018年5月22日火曜日
花谷清「カルネアデスの板の漂う青地球」(『球殻』)・・
花谷清第二句集『球殻』(ふらんす堂、装幀・和兎)、集名は、
かぎりなく危き救殻雁渡る 清
の句に因む。「球殻(きゅうかく)」とは聞きなれない言葉だが、れっきとしてあるらしい。ごく簡単にいうとピンポン玉のように中身がない球のこと。もっとも、少し調べると物理学用語らしいので専門家にはそれなりの理屈がかくされているのだろう。ブログタイトルにあげた句の「カルネアデスの板」も哲学的な命題、遭難した船に板が流れてきて、その板につかまれば一人は助かるが二人は無理で、一人を突き落として助かった人を責められるか?というようなもとになっている命題らしい。こうした趣向を句に取り込んでくるのは、和田悟朗に私淑した花谷清ならではのものだろう。掲句では厳密にいえば青地球に季語・季語的な情趣はないが、句としては人間的な深い問いがひそんでいる。
本句集とほぼ同時期に刊行された『藍 合同句集 第11集』は「藍」の創刊45周年記念事業だとある。清の母・花谷和子も健在のようで、何より慶賀である。合同句集には以下の句も掲載されている。
こころにも奥やジャスミンなお奥へ 花谷和子
しゃぼん玉ひとつふたつは空を蹴り 花谷 清
見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く 日野草城
「俳句は東洋の真珠である」とは、和子師の日野草城の言葉。今年はその没後62年にあたるという。
ともあれ、句集『球殻」より、いくつかの句を挙げておこう。
未だ見ず落ちる途中の紅椿 清
時間より狭き空間つばくらめ
海から吹きここからは薔薇の風
K先生
つゆけしやチェルノブイリの首飾り
折目から灼ける折鶴色なきまで
悼・和田悟朗先生
紫外から遠赤外へ夜の虹
雪だるま類型超えること難し
質量の前の等号冬隣
花谷清(はなたに・きよし) 1947年、大阪府豊中市生まれ。
撮影・葛城綾呂 キララ↑
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