伊丹啓子第3句集『あきる野』(沖積舎)、その「あとがき」に、
第一句集『ドッグウッド』をニ〇〇四年に、第二句集『神保町発』をニ〇一三年に沖積舎から上梓した。『あきる野』は私の第三句集である。九年間で第三句集に至った。(中略)
第二句集以降は私にとっての大事が重なった。母がニ〇一四年に満八十九歳で逝き、父がニ〇一九年に満九十九歳で逝った。頼りとする沖積舎主が難病を発症した。私が発行していた「青玄」終刊後の後継誌「青群」の編集は発行人を同誌にバトンタッチした。
若い頃から現在に至るまで、街中の職住を往復して齢を重ねてきた。結果、近頃は山川草木の残る地に憧れるようになった。句集名の所以である。
とあった。 因みに集名に因む句は、
向日葵めく深山蒲公英 あきる野に 啓子
であろう。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
林住といえども人中 豆の蔓
ハクビシン 祭化粧で訪い来たる
父を冨士霊園文学碑公苑に納骨
父母なおも骨壺で添う 花菜冷え
岩魚喰う 珍(うづ)の苦みも半夏生
身の内の鬼も欲しがる 年齢(とし)の豆
(シャン=戦前の学生語で美人の意)
香香(シャンシャン)はシャンでお利口 こどもの日
珊瑚忌に(珊瑚忌=伊丹公子忌)
珊瑚忌の遺影 珊瑚のレイ掛けて
凩や 死者は生者の意のままに
魂(たま)までは切れぬ断捨離 虫すだく
堕天使の降臨 実石榴のまっ二つ
曲り屋に 藁この匂い 炉の匂い
伊丹啓子(いたみ・けいこ) 1948年、兵庫県伊丹市生まれ。
芽夢野うのき「すべてが夢の続きではない柘榴の実」↑
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