「『夏潮』別冊/虚子研究号 Vol.Ⅻ 2022」(夏潮会)、本誌は、当然のことながら、全編虚子にかかわる記事で構成されている。井上泰至「山本健吉の虚子評価」、岸本尚毅「川端茅舎『花鳥巡礼』について」、小林祐代「西山泊雲と虚子」、中本真人「戦時中の虚子の新作能について」、本井英「大正四年冬の虚子」などのなかから、ここでは、筑紫磐井「虚子と秋櫻子ー①秋櫻子の絶頂まで」に触れておきたい。 その論証のために、大正11(1922)年1月から昭和6(1931)年12月にかけての「ホトトギス」誌上における秋桜子と虚子の年表を17ページに渡って作成している。そして、「(2)雑誌のホトトギスにおける作品活動以外の評価」の項では、
(前略』結論から言えば、大正11年から昭和6年において、ホトトギスは秋櫻子の重要性が高まり、特に後半期において秋櫻子がいなくてはホトトギスという雑誌が運営しえなかったであろうということである。他の有力な俳句作家はいても、雑誌運営の構成員としては秋櫻子は余人をもって代えがたい存在であった。これは一方的な関係ではなく、秋櫻子もこの時期のホトトギスに在籍したことで後の秋櫻子を確立するためにも不可欠であった。
と述べている。詳細な論証なので、興味ある人は、直接、本誌に当たられたい。愚生としては、「漫談會」の部分で、短歌と俳句の写生論争(昭和4年7月・8月)における斎藤茂吉の虚子批判の部分を引用しておきたい。
「原稿が届いてそのはじめの方を読んで見て、先づ和歌に対する鑑賞眼の低級なのに驚いてしまつたのである。特に俳人側の主役をつとめるべき位置にある虚子氏の、赤彦の歌に対する無理解、人麿歌集出の「あしびきの山がはの瀬の」歌に対する態度の幼稚さに至つては、僕はもはや多言する必要は見ないのである。」
と以下具体的例を挙げて、長大な批判を進めている。ホトトギス誌上でこれほど激しい虚子に関する非難が載ったことはなかったようである。
この茂吉との座談は、虚子の直接依頼により実現したらしい。(中略)
これを以て以後の「満談會」は無難な話題(芝居、将棋、釣、青龍社〈美術〉、歌舞伎、山會〈文章會〉等に切り替えられ、15回をもって終了した。
とある。ここで、話題をこの緻密な「【表】ホトトギス誌上記事:秋桜子・虚子年表」の制作過程についてだが、この年表作成にあたって、筑紫磐井は「国会図書館新システムを利用するー虚子と秋櫻子研究の例を踏まえて」(「俳句」9月号)を執筆している。それには、
(前略)国会図書館で五月十九日から「個人向けデジタル化資料送信サービス(個人送信)が開始されることにより、近代俳句研究に強力なツールが生まれることとなった。具体的には国会図書館の膨大な蔵書が自宅において手軽に読むことが出来るというものである。(中略)
国会図書館のシステムが出来た経緯について少しふれておきたい。国会図書館の新システムが生まれるに当たっては書物の画像データが必要だ。その作成には膨大な手間と資金を必要とすることは当然である。(中略)本システムの当初の画像は、このマイクロフィルムが活用されていたと思う。
実は明治初期の歳時記研究をしているとき、日本最初の太陽暦歳時記を発見し、それが国会図書館に所蔵されていることを発見した。能勢香夢著『俳諧貝合』(福井・酒井文栄堂 明治七年八月刊)である。論文執筆のため複写を依頼したが、古い本であるため複写はできないということで示された条件が、私の負担でマイクロフィルムを作成し、そこから複写するという提案であった。研究のためには必須の資料であるため了承したのだった。それを使って平成六年十二月「俳句アルファ」第9号「明治以降の季語と歳時記」、平成七年二月「俳句文学館268号「太陽暦と季語」、平成八年十月「俳句文学館紀要」第9号「明治七年・太陽暦歳時記の誕生」と立て続けに論文を発表した。その意味では近代俳句史に多少貢献できたと思う(尾形仂先生から評価していただいた)。しかし、『俳諧貝合』の複写を受け取るとき、国会図書館から一つの提案を受けた。私の負担で作成したマイクロフィルムを国会図書館に寄贈してもらえないかということであった。今後マイクロフィルムとして利用者に提供するためだという。此学の発展のためには拒む必要もないから快諾した。現在この資料はインターネットで見ることが出来るが、大昔のそんなやり取りを懐かしく思い出している。
と記されていた。この国会図書館の「個人向けデジタル化通信サービス」については、「俳句」(発行 角川文化振興財団/発売 株式会社KADOKAWA)9月号に、「俳書の大海に乗り出そう『デジタル化資料』探し方ガイド」として①「国会図書館デジタルコレクション」へのアクセス、②「『詳細検索』の使い方」③「読みたい資料をクリック」などの案内が掲載されているが,いずれにしても、活用するには「利用者登録」が必要であるとのこと。登録は自宅のパソコンからできる。利用者登録が済めば24時間利用できるらしい。
ともあれ、以下に、アトランダムに、「夏潮」別冊「虚子研究号」から、いくつかの句を引用紹介しておこう。
大寒の埃のごとく人死ぬる 高浜虚子
わが山に我木の実植う他を不知(しらず) 西山泊雲
方丈の大庇より春の蝶 高野素十
撮影・中西ひろ美「この世にまるい柔らかいもの秋一日」↑
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