2016年9月15日木曜日

坂本宮尾「シベリアにつづく青さを鳥帰る」(『別の朝』)・・・



坂本宮尾第三句集『別の朝』(図書新聞)の集名は、てっきり以下の句からと思いきや、

   花仰ぐまた別の町別の朝     宮尾

「あとがき」には次のようにしたためられていた。

 アメリカが誇るべきブルースは、ひとのこころの嘆き、憧れの歌です。その世界は、日本の演歌に似ているかもしれません。ブルースが歌いあげるおもな中身は、つまるところ、「こんなひどい仕打ち、もう耐えられそうもない、・・・いいさ、おれ(あたし)別の町に行くさ・・・いつだって、いつだって、まっ新な別の朝が来るんだからな」ということのように思います。
 詠み貯めた句を眺めているうちに、「別の朝」というブルースのフレーズのような句集名が浮かび、題に即した句集にまとめようと思いつきました。通常なら、句集に収める作品のなかから、ふさわしい句集名を選ぶものでしょうが、このたびの句集はその意味で逆の発想なのです。

また、井出彰の帯文には、親愛とユーモアがただよう、

著者は歴とした米文学者だ。その知性には感服ばかりだが、どこかで色香が薄い、と私の願望が思っていた。今度の句集のタイトルが『別(わか)れの朝』とあったので、やっぱり女性だったかと驚いたり、しかし、『別(べつ)の朝』の早とちりでほっとしたり。だが、作品には相変わらず凛とした緊張感が張りつめている。頁を開けば、新鮮な短詩の世界が展開する。

とあった。その頁を開いて、いくつかの愚生好みの句を以下に挙げておこう。

   蜂蜜に花ごとの色秋日和
   結界の白みゆくなり百千鳥
   涼風や空壜どれも捨てがたく
   春障子鶴女房を隠したる
   はじめてのこの町林檎の小さきこと
   トーストにとりどりのジャム小鳥来る
   麦畑長靴履きて猫現れよ
      書きためし『オーガスト・ウィルソン』ようやく上梓の運びとなる
   校了のこころにかなふ冬の雨
   夕風や金貨のやうに秋の蝶
   砂の城砂に崩れてさへづれり

坂本宮尾(さかもと・みやお) 1945年、大連生まれ。






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